コラム

安倍政権は要注意、米朝会談で日本はアメリカに裏切られる!?

2018年03月22日(木)15時30分

一方、短・中距離ミサイルの放棄や廃棄を北朝鮮に要求しても、応じる可能性は低い。たとえ北朝鮮が約束しても、廃棄の確認は非常に難しい。ミサイルを隠し持つ可能性もあるし、製造の再開はとても防ぎづらい。

また、日本と同じく短・中距離ミサイルの射程圏内にある韓国も、そこまでミサイルにこだわらない見込みだ。そもそも北朝鮮は国境から約50キロしか離れていないソウルを、ミサイルを使わずとも「火の海」にできるからだ。韓国にとってはミサイル放棄がイコール脅威解消ではない。それよりも全体的な緊張緩和を優先するはず。

つまり、短・中距離ミサイルにおいても日本は交渉パートナーに「裏切られる」可能性が高い。でも、だからと言って絶望する必要はないし、ムキになって裏切り返す手段は取るべきでない。総合的な合意ができなくても、アメリカや韓国が妥協して決める部分的な解決や緊張緩和などは日本の国益にもつながる。そこは協力姿勢を示した方がいい。

そんな「裏切り」に備え、日本がこだわるイシューを自らの力で解決する準備に取り掛かろう。

そこで考えないといけないのは、北朝鮮の要求と日本が提供できるものだ。

北朝鮮が一番に目指すのは体制維持と安全保障の確保。それに応えられるのは、主に北朝鮮と「戦争中」であるアメリカや韓国だ。米韓合同演習の延期や停止、在韓米軍の撤退や配備構成の変更、朝鮮半島の非核化などを交渉カードとして使える。

もちろん、思いやり予算を払い、米軍基地の土地も人材も提供している日本だから、「軍備力カード」は日本のためにも使ってもらう権利はあると思う。でも、トランプがそれを認めるのか、そもそもその事情を把握しているのか......。敵地攻撃力を持たない日本は、北朝鮮にとって直接的な脅威になっていない。その分、アメリカほど軍事的な圧力をかけて交渉はできない。しかし日朝の関係改善、国交の正常化などは提供できる。これらも北朝鮮の体制維持と安保上の安心につながる有力なカードだ。

次に北朝鮮が要求するのは経済制裁の緩和、そして支援金や経済協力などだろう。ここは日本が活躍できる場だ。日本の経済は韓国よりも大きくて元気。日本の政府はアメリカよりも統率が取れていて、国民からの反発も少ない。日本は3カ国の中で一番、北朝鮮への支援がしやすい立場かもしれない。蚊帳の中に入るチャンスだ!

そのため、交渉に入る前に日本が考えないといけないのは、「何を優先するのか」と「いくら出せるか」だ。

僕は個人的には、完全たる総合的な合意ができないなら、まずは関係改善とともに拉致問題の解決を優先し、ミサイル放棄を後回しにしていいと思っている。その理由は、「本当の脅威解消とは何か」を考えれば理解できると思う。短・中距離ミサイルの放棄を条件に合意が成立すれば、日本人は完全に安心できるか? 僕はそう思わない。未完成なICBMと違って、北朝鮮の中距離ミサイルは完成しているし、性能は実証されている。たとえ合意の下でいま保有しているものを廃棄することになっても、その確認は難しいし、またすぐ作れるはずだ。

そもそも日本を攻撃するためにミサイルを使う必要はない。核爆弾をコンテナに積み、第三国の船に乗せて東京湾に送り込むことはいつでもできるはず。正確に攻撃ができる上、追跡され得るミサイルと違って責任の所在を究明しづらい。北朝鮮が核爆弾を持っている限り、安心はできない。

非核化の要求も現実的ではない。北朝鮮にとっては、これが一番応じたくないものだ。しかも非核化を約束しても、ミサイルと同じく完全廃棄の確認はほとんど不可能だし、いつでもまた作れるはず。世界の歴史上、核保有国を非核化させるのは極めて困難だ。今回もそうだろう。祈ることはできるが、期待しない方がいいと思う。

つまり、ミサイル・核開発の凍結はもちろんのこと、放棄や非核化に合意してもらっても、それだけでは安心できない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米関税は消費者行動に最も影響、コスト削減での対応想

ビジネス

米ブラックロック、数十億ポンドの割安な英資産取得=

ワールド

アングル:マスク氏率いた米政府効率化省「DOGE」

ビジネス

午後3時のドルは143円半ばへ反発、日米財務相会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story