コラム

過剰反応はダメ、ゼッタイ

2015年11月17日(火)15時30分

フランスは今、テロに対する怒りと悲しみに包まれている Guillaume Horcajuelo-REUTERS

 Solidarité!

 この悲しみを共有し世界中で団結しよう。そういった強い意志を示す声が世界各国から挙がっている。僕も心からお悔やみを申し上げます。そして一緒に平和な世界作りに貢献することを誓います。

 僕にできることは、ここで議論の材料を提供すること。そしていつものギャグを我慢すること......今回だけだよ。

 テロの効果は、受ける側の反応次第。何千年の歴史を持つ「テロ行為」は、相手に恐怖を与えることで、ほかの手段で得られないほどの大きな反応を引き出すことが目的なのだ。恐怖を感じた側が、普段の行動を控えるのも、必要以上に軍事的な対応をするのも、テロ犯の目標達成につながる。だからテロが起きたあと、テロリストの狙いを把握して、それを達成させないように努めるのが賢いレスポンスだと思う。テロ被害を受けたときは、悲しみながら、怒りながらも、テロ犯が冷酷な分だけ、こちらもよく考えて、冷静に反応しなければならない。

 パリで起きたテロ事件を分析すると、その狙いがいろいろと見えてくる。単純に、サッカースタジアムやコンサート会場を攻撃したことで、市民の楽しみを奪い、行動を制限しようという意図が見られる。また同時に、バーやレストラン、カフェなどのソフトターゲットを襲うことで、市民の生活が麻痺状態に陥ることも狙っているのだろう。ありきたりなテロの常習手段だ。

 しかし、なぜ今回の攻撃相手をパリに定めたのか? 「空爆の報復だ」と言うなら、空爆の80%以上を行っているアメリカを攻撃するのが筋だろう。パリを選んだという意味は、今回のターゲットオーディエンスはフランス国民に限らないということ。

 パリだと世界の注目度が断然違う。フランスへのテロ攻撃の一方で、その前日にはレバノンでも同時多発自爆テロで43人が命を落としている。もちろんこのコラムの読者はご存知だと思うが、大きく取り上げられた前者と比べ、後者の世界的な認知度は低いだろう。パリであれば、世界中の目をひきつけることが可能だということ――犯人たちもその「宣伝効果」を意識していたと思われる。

 もちろん、世界各国からの観光客が渡仏をためらう心理効果も狙っているだろう。年間8000万人もの旅行が訪れるフランスでは、観光産業がGDPの10%ぐらいを占める。攻撃が起きたのが観光地じゃなくても、世界の観光客がパリを避けることにつながる。結果として、他の国よりも甚大な経済損失をテロにより被ることになる。

 さらに、容疑者の遺体の近くからシリアのパスポートが見つかったことから、シリア難民に対する恐怖を煽る狙いもあったのかもしれない。容疑者本人のものではなく、「見せかけ」の可能性もある。どこまで犯人が計算していたのかはわからないが、「テロリストが難民に紛れ込んでいる」とヨーロッパ各国に思わせたい狙いも考えられる。ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)から見れば、難民問題で西洋各国が苦しむことも、ヨーロッパ人とイスラム教徒が対立することも、両方望ましいことなのだ。さらに、イスラム教徒が難民生活で長く苦しむことは、思想の過激化を助長する。これも、ISISにとって有利に働くのだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アルゼンチンGDP、第3四半期は前年比3.3%増 

ビジネス

テスラ、独で電池セル生産強化 10億ドル投資へ

ワールド

トランプ氏、入国制限を拡大 シリアなど7カ国やパレ

ビジネス

みずほFG、インドのアベンダスに60%超出資 最大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story