コラム

過剰反応はダメ、ゼッタイ

2015年11月17日(火)15時30分

 ISISは、テロが難民だけではなく移民にも同じような効果をもたらすと考えているはずだ。フランスはイスラム教徒が人口の7~8%と、ヨーロッパで割合が一番多い。だが、その全てが社会に溶け込んでいるとはいえないようだ。フランス国内でイスラム教徒に対する日常的な差別があるし、信仰の自由を侵害すると感じられるような服装制限が法律で定められてもいる。また、イスラム教徒の平均収入が低く失業率が高いという、経済格差も指摘されている。難民同様、体制に対する不満が強い上、仕事もなく失うものもない。そんな怒りと絶望に満ちた若者をISISは「人材」として活用する。現にフランスから700人以上の人がISISの戦闘員になっているという。これもヨーロッパで1位。これも踏まえてフランスが攻撃対象とされたかもしれない。

 ISISの狙いは、テロ攻撃を通してフランス人に生活上の恐怖と経済損失を与えることだけではない。ヨーロッパをはじめとした世界各地で「イスラム圏」と「異教徒圏」の対立構造を作り、世界中のイスラム教徒を味方につけること。攻撃自体よりも、それに対する過剰反応の結果、イスラム教徒が抱く体制に対する不満が高まり、彼らの思想を過激化させて、ISIS戦闘員への参加が増加することを見込んでいるのだろう。

 テロ攻撃を受けた側はその計画に乗ってはいけない。

 ポーランドは、パリのテロ攻撃を受けて、EUの難民分担の合意を撤回した。しかし、最初はISISから逃げている人たちでも、終わりの見えない過酷な難民生活を余儀なくされれば、ISISの勧誘に心惹かれるようになることがあるかもしれない。その結果、逆にテロが増加することになるまいか。

 また、フランスはすぐに報復攻撃に出た。空爆したのはISISの主要拠点ラッカ。この町は十数万人の一般市民の中に、数千人のISIS戦闘員が隠れている地帯だ。市街地を空爆すれば罪もない方々が巻き込まれることは、ほぼ避けられない。フランスの空爆によって殺された方の遺族は、その怒りの矛先をどこに向けるのだろうか。報復の連鎖が断てないこの作戦で、果たしてフランス国民の平和は確保できるのか。「テロに屈しない」行動が、結局テロ組織の目標達成につながることもありうるのではないか。

 歴史をみれば、こんな前例がある。アルカイダが2001年9月11日の同時多発テロで3000人以上も死なせ、1000億ドルもの経済損失をアメリカにもたらした。しかし、それをきっかけにアメリカが自ら起こした2つの戦争で7000人近くのアメリカ兵が死亡し、4~6兆ドルもの莫大な富をなくした。そして現地の犠牲者数は50万人以上とされており、戦場となった両国の各地が壊滅状態になった。結局は反米感情が高まり、過激派組織の数も増え、中近東がカオスに陥り、テロの件数が急増した。きっかけになったそもそもの攻撃よりも、アメリカの感情的な反応が、アルカイダの狙いを実現させた。アメリカがアルカイダの夢を叶えてしまった。

 テロも過激的な思想もすぐにはなくならない。テロ攻撃が起きた後、だからといってすぐに撤退することはできない。もちろんISIS対策には継続的な軍事行動も必要だ。そんなことはよくわかっている。

 でも、軍事的な過剰反応も、生活、政策上の過剰反応もISISの狙いなのだ。

 逆にISISがやってほしくないことをしないと。フランス人が堂々とレストランにもコンサートにも行き続けること。世界中の観光客が、花の都パリに遊びに行き続けること。異民族、異宗教の人同士が仲良くすること。難民を支援すること。移民を平等に扱うこと。

 テロ直後で心情的に難しいことだとは思う。しかしそんなことを実現することができたら、その時こそISISは真に敗北するだろう。
 
 とにかく過剰反応に気をつけよう。そういえば僕、今回はギャグを全部、控えなくても良かったかも。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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