コラム

BTSとJ-POPの差はここにある──大江千里が「J-POPが世界でヒットする時代は必ず訪れる」と語る訳

2022年02月02日(水)16時07分

米NBCテレビに出演した際、大江は「BTSの火付け役」だと思われた SENRI OE

<大江が見たK-POPアーティストの実像と、そもそも海外市場を視野に入れてこなかったJ-POP、BTSとピコ太郎の成功が意味するもの>

最近、アメリカ人の友人の娘さん(12歳)がBTSに夢中。「かっこいい」と目を輝かせる。今やK-POPは「世界で売れる音楽」だ。

思えばジャニーズをテキストにK-POPは始まった。日本への憧憬から2000年代に日本市場に進出したK-POPは、次は欧米に標準を合わせる。K-POPはマーケットでてっぺんを取るためにつくられ、BTSはその最も成功した例だ。

K-POP界の人は生き残りを懸けて戦うというか、自国を背負う感覚で音楽をやっている。デビュー時には既にダンスも歌もクオリティーが高く、顔のお直しも完了している。

一方の日本は、宝塚に代表されるようにファンと一緒に成長する過程を楽しむ独特のスタイルだ。少しぐらい「へたうま」のほうがファンには応援しがいがある。

K-POPはグループでも常に「ソロ」で歌い、日本のアイドルによくある合唱スタイルではないため常に個人のスキルが試される。BTSが本番直前まで血のにじむような準備をしている話は僕にも漏れ伝わってくる。

世界(欧米)で売るため、BTSの世界的大ヒット曲で全編英語詞の「Dynamite」はイギリス人のソングライター2人が共同で作った。彼らの母国の市場は、決して大きくない。だからこそ世界を目指す。これが自国の代表選手として飛び出す韓国アーティストの実像だ。

BTSを売り出すとき、全米で(※)女性ファンたちが草の根で宣伝しラジオでのオンエアにつなげ、トップへ担ぎ出したのは有名な話だ。官民一体の音楽PR、国際社会でのアイドルマネジメントの「完成形」とも言える。

日本は世界第2の音楽市場なので、国内だけでリスクを背負わずに経済循環できる。そもそも海外市場を視野に入れていないフシがある。

アメリカから見れば大江千里は「BTSの火付け役」?

とはいえ、うれしいことにアメリカではJ-POPには常にマニアックなファンがいる。僕が音大時代に参加したビッグバンドはモーニング娘。や浜崎あゆみを好んで演奏したし、バンドの発起人はJ-POP「通」だった。最近では日本のシティーポップ、例えば松原みきの「真夜中のドア」や、竹内まりやの「PLASTIC LOVE」などが人気だ。

もともとJ-POPには幅広いジャンルがあり、キャッチーなアイドルソングだけじゃない「振れ幅」を持つ。逆に言うとそれが世界には分かりづらい。世界は英語じゃないと理解できないので、ピコ太郎の切り口は逆に新鮮だった。「上を向いて歩こう」は今も名曲だし、人種を超え、J-POPが世界でヒットする時代は必ず訪れると思う。

僕が19年にNBCテレビに出た時、出演者側へのカンペに「BTSの火付け役になった元ポップアーティスト」と出た。僕は違うと抗議したが、アメリカから見れば日本も韓国も大差ない。K-POPがアジア音楽への垣根を取り払い、J-POPも出ていくチャンスの分母が広がった。

クオリティーの高いJ-POPは「売り上げ、売り込み、国を背負い」ではないが、いい曲は必ずヒットする。シティーポップの台頭が僕たちに宝の存在を気付かせてくれていると、僕は考える。

※一部誤解を与える表現があったため訂正しました(2022年2月3日20時15分)。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

相互関税は即時発効、トランプ氏が2日発表後=ホワイ

ワールド

バンス氏、「融和」示すイタリア訪問を計画 2月下旬

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ問題など協議

ワールド

米、中国軍事演習を批判 台湾海峡の一方的な現状変更
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story