コラム

モデルナ製ワクチンで重い副反応を経験した大江千里が、それでも3回目を接種する理由

2021年09月24日(金)17時50分

ニューヨークのレストラン前で「ワクチンパスポート」を見せ合う大江(左)SENRI OE

<コロナワクチンのブースター接種が解禁されるアメリカで、モデルナ製ワクチンの2回目接種後にアナフィラキシーショックを経験した大江千里は迷いつつも3回目を接種するという。そうせざるを得ない訳とは......>

アメリカで9月22日、ファイザーワクチンの3回目の接種、いわゆるブースターショットが65歳以上や基礎疾患がある人たちなど、リスクが高い人たち限定で許可された。2回目の接種から半年以上たつとブースター接種が可能になるという。

モデルナワクチンはまだブースターの許可は出ていないが、今年2月にモデルナワクチンの2回目を打ちアナフィラキシーショックを経験した僕は、3回目には迷いがある。もちろん打つだろうが、その後は誰かにそばにいてもらう。1人で夜を越すのはあまりに危険だ。でもはっきり言って、3回目を打たないと社会生活は厳しくなるだろう。

8月17日以降、ニューヨーク市では屋内飲食やジム、娯楽施設などを利用する客と従業員にワクチン接種を証明できるもの、いわゆる「ワクチンパスポート」を見せることが義務化された。その後にマンハッタンでホテルのバーへ寄ったら、パスポートを持っているかと聞かれた。

僕は2回受けていて、まだパスポートを作ってないと説明すると、「9月13日からは本格的に罰せられるので駄目だけど、今日に限っては目をつむる」と入れてもらえた。このあと場所を移しランチをとったら、「外でのダイニングならばオッケー」だった。

さらに別の書店のカフェに入ると、店員は「今回は目をつむります」と言ってくれたが、席に座ると別の店員がやって来て「パスポートは?」と言う。事情を話すと、「申し訳ないが禁止されているので」退店するしかないということだった。なかなか厳しい。

同じ日にレコード会社へ出掛けたが、マスク着用義務は厳しいものの、ワクチンパスポートの提示は求められなかった。コロナ事情は日々変化しているので、来週あたりはもっと厳しくなっているかもしれない。

打ったかどうかの話は「タブー」

友人と道端で会うと、「ワクチンは国と企業がズブズブなので受ける気になれない。マラリアの治療薬がインドでの大感染を食い止めたから、この治療薬が市販されるのを待ったほうがいい」とノーマスクで力説された。別の友人の弟はバイデン政権を批判的に見ていて、ワクチンは打たない派だ。

安全性の立証が不十分と答える人もいれば、先述の彼らのように政府への不信を挙げる人もいる。事実だけを語れば、ワクチンは重症化を食い止めることができるし、死に至る可能性をかなり低くするわけだから、受けたほうがいいのは明白だ。

しかし、受けたくない、拒否したいという人の意思も尊重されるべきだ。今もニューヨークでは公の場所で打ったか打っていないかという会話はタブーだし、それによって差別されてはいけないという風潮がはっきりとある。

でも、それは建前としてでもある。実際のところは、「打っていない人が社会生活に交じることへの懸念が大いにある」のが本音だ。心の中での「なぜ打たない?」という思いは、多くの接種者には当然あるとは思う。

僕はこの日の夜、すぐにネットで自分の持っているワクチン証明書をデジタル化した。3分あればできる。携帯にこれが入っていれば安心だ。おそらく打っていないと今後は社会生活で不便さが増すだろう。そうなると社会の断絶は進む。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米商務省が最先端AI半導体のサウジとUAE企業向け

ワールド

トランプ氏、州のAI法阻止へ大統領令検討 訴訟や資

ビジネス

日経平均5万円回復、米エヌビディア決算を好感 金利

ワールド

トランプ米大統領、エプスタイン文書公開法案に署名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story