戦後のレニングラード、PTSDをかかえた元女性兵たちの物語『戦争と女の顔』
1945年、戦後のレニングラードが舞台 『戦争と女の顔』(C)Non-Stop Production, LLC, 2019
<終戦直後の瓦礫の街と化したレニングラードを舞台に、PTSDに悩まされながらも、生活を再建しようともがく二人の元女性兵士の姿が描く......>
ロシアに属するカバルダ・バルカル共和国出身の新鋭カンテミール・バラーゴフ監督の長編第2作『戦争と女の顔』では、終戦直後の瓦礫の街と化したレニングラードを舞台に、PTSDに悩まされながらも、生活を再建しようともがく二人の元女性兵士の姿が描き出される。
本作を作る上でバラーゴフに大きなインスピレーションをもたらしたのは、ノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー作『戦争は女の顔をしていない』だった。
500人以上の従軍女性の証言集
ソ連では第二次世界大戦に100万人を超える女性が従軍し、看護師や軍医だけでなく兵士として戦った。アレクシエーヴィチは500人以上の従軍女性にインタビューを行い、この証言集にまとめることで、男の言葉で語られてきた戦争に隠された真実を明らかにした。
バラーゴフは、そんな『戦争は女の顔をしていない』の何にインスパイアされたのか。本作の内容に話を進める前に、原案となった証言集を構成する要素の中で、本作と繋がりがあると思える二つの点に注目しておきたい。
アレクシエーヴィチは、一人の人間の中にある二つの真実に言及している。それは、心の奥底に追いやられている個人の真実と、時代の精神が染みついた他人の真実で、前者は後者の圧力に耐えきれず、人間の内にある理解しがたい暗いものが、たちどころに説明のつくことになってしまう。バラーゴフは、そんな二つの真実を意識し、それらがせめぎ合い、心の奥底にあるものが炙り出されるような設定を作っている。
もうひとつは、18〜20歳で前線に出て行き、そこで4年も過ごした後では、女性としての認識が変化しているということだ。「初めてワンピースを着た時には涙にくれたものよ。鏡を見ても自分だと思えなかった。四年間というものズボンしかはいていなかったからね」、「私は二つの人生を生きてきた気がします。男の人生と女の人生を」、「私は今でも女の顔をしていません」といった証言がそれを物語る。バラーゴフも主人公の元女性兵士の中にある男性と女性を強く意識している。
本作の物語は、多くの戦傷病者が収容された軍病院で看護師として働く主人公イーヤが、発作に襲われ、放心状態で立ち尽くす場面から始まる。同僚たちは彼女の発作に慣れてしまっているらしく、誰も気にとめない。間もなく発作はおさまり、彼女は何事もなかったように業務に戻る。
イーヤはパーシュカというまだ幼い子供を育てているが、ある晩、子供とじゃれ合っている最中に発作が起こり、子供を下敷きにしてしまう。やがてイーヤの戦友だったもう一人の主人公マーシャが帰還し、イーヤを訪ねてくる。
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