コラム

ブータン寺院の家族が、押し寄せる近代化の波の中、手探りで幸せを見出す姿

2018年08月17日(金)13時10分

『ゲンボとタシの夢見るブータン』 (C)ÉCLIPSEFILM, SOUND PICTURES, KRO-NCRV

<1999年にテレビ放送が始まり、ブータンに急速に押し寄せる近代化。その変化と代々寺院を引き継いできた家族はどう折り合いをつけていくのか>

ブータン王国ですぐに思い出されるのは、GNH(国民総幸福量)だが、その理念を具体化していくためには、乗り越えなければならないハードルがある。

ブータンは1970年代まで鎖国政策をとってきたため、伝統文化と急速に押し寄せる近代化の波にどう折り合いをつけていくのかが大きな課題になる。

ブータンの寺院を代々引き継いできたある家族の物語

ブータン出身のアルム・バッタライとハンガリー出身のドロッチャ・ズルボーが共同監督したドキュメンタリー『ゲンボとタシの夢見るブータン』では、ブータンの小さな村に暮らし、代々寺院を引き継いできたある家族の物語を通して、そんな課題が浮かび上がってくる。

在家僧侶である父親は、長男のゲンボに、出家して寺院を継いでもらいたいと思っている。そうなるとゲンボは、世俗の学校を辞め、僧院学校に通うことになる。これに対して母親は、ゲンボにまず世俗の学校で英語教育を受けさせ、観光客に英語で寺の説明ができるようにすべきだと考えている。

子供たちは、仏教の伝統を守ろうとする父親とはまったく違う世界を生きている。ゲンボはサッカー好きで、ギターを習い、ゲームを楽しみ、フェイスブックで女の子と親しくなり、そして進路について思い悩む。妹のタシは、自分は本当は男の子だと思い、男の子のように振る舞い、ブータン初の女子サッカー代表チームに入ることを夢見ている。

この家族の関係で見逃せないのは、父親と子供たちの生年と年齢だろう。父親とゲンボとタシは、それぞれ1960年、2000年、2001年生まれで、映画の撮影当時、55歳、15歳、14歳だった。親子の世界の違いが際立つのは、年が離れていることももちろん大きいが、おそらくはそれだけではない。

テレビ放送によって価値観や世界観が変わっていく

ここで頭に入れておきたいのは、ブータン国内でテレビ放送が開始されたのが1999年だったということだ。

それを分岐点として、インターネットやスマホなども普及し、新しいメディアが特に若者たちに影響を及ぼしていくことになる。ゲンボやタシは、テレビ以後に誕生し、新しいメディアとともに成長してきた世代といえる。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

大企業・製造業の景況感が4期連続改善、物価見通し小

ワールド

ベネズエラ、最終的に移行期間と自由・公正な選挙必要

ビジネス

独メルセデス・ベンツ、米アラバマ工場に40億ドル投

ワールド

世界の発電容量に占める再エネ割合、昨年は50%に迫
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story