コラム

先進国はぜいたく品を必需品にすることで貧しくなる

2018年05月09日(水)20時13分

ペットボトルの水を飲むのはエセ貧困?…… recep-bg-iStock.

<本来「ぜいたく品」のペットボトルの水やスマホなど「無駄な必需品」が増えると人は貧乏になる>

マーケットニュースというのは、くだらないか間違っているかどちらかだが、先日は例外的に興味深いニュースがあった。

米国株価が下落したことの説明で、生活必需品関連株が下落したという報道だった。

その中で、生活必需品であるコカ・コーラなどの......という説明があった。

コーラが必需品?

米国生活の影響もほとんどなくなった私にとっては聞き逃せない言葉だった。

しかし、考えてみれば、彼らは、鮨にもコーラだし、コーラがなければミネラルウォーターがないぐらいの騒ぎになる。確かに必需品か。

我々の生活を振り返っても、ペットボトルのお茶は必需品のように思われているが、客観的に見ればまったくそうではなく、明らかなぜいたく品だ。

うちの学生は、所得のばらつきが大きく、それゆえ、貧困であることに高い誇りを抱いている学生もいる。彼に言わせると、似非貧困との見分け方の一つは、ペットボトル飲料を買うかどうかである。

つまり、あれほど高価なぜいたく品、無駄なものはないのである。もちろん彼は、家から水道水またはフィルタードウォーターを、何かの機会に無料で配られたペットボトル飲料の容器を洗って使っている。ペットボトルのお茶を買うことは、お金を払って利便性を手に入れているだけであって、利便性に対価を払うというぜいたく品なのであり、必需品ではないのである。

私も留学時代は、日本からもっていったペットボトルの容器に(日本製は丈夫だから)、学校にある巨大なウォーターサーバーから水を補給するか、まとめ買いした1ガロンの格安ミネラルウォーターから移し替えて学校に持っていっていた。

利便性のための消費はぜいたく消費

そうなると、必需品の定義は何か。

利便性のための消費はぜいたく消費だから、利便性を高めるものは必需品ではない。

これは社会により変わってくるといえる。

つまり、米国社会においては、コーラは必需品であり、利便性ではない。

スマホを購入し、毎月通信料を支払うことは、利便性そのものを購入しているのだから、ぜいたく品に見えるが、ある地域の高校生あるいは中学生にとっては必需品であろう。スマホがなければ社会に参加することが拒否されてしまうからである。

もちろん、変なぜいたく品が必需品になっている社会を見放して別の社会に移るという選択肢もあるわけであるが、その社会の中では本来ぜいたく品である無駄なものが必需品となっているのであり、いかなるぜいたく品も必需品となりうるのであり、どこかにそのような社会は存在するのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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