最新記事
シリーズ日本再発見

杉原千畝の「命のビザ」と日本酒が結ぶ、ユダヤと日本の絆

KOSHER SAKE POURS INTO JAPAN

2021年03月18日(木)16時15分
ロス・ケネス・アーケン(ジャーナリスト、作家)

コーシャ認証は厳しい。エドリーは250ほどある要件を根気よくチェックする。例えば製造過程にゼラチン(たいていは豚の皮から作られる)が含まれていたら認証を得られない。

もちろん水と米、麹だけから造られる本来の日本酒なら、完全にコーシャの要件を満たしている。ただし他の穀物を混ぜたり、醸造アルコールを加えたりしていると認証されない可能性がある。梅などで微妙な風味付けをしている場合も同様だ。同じ道具や機械が非コーシャの酒造りにも使われている場合も、認証は得られない。

舩坂酒造の「深山菊秘蔵特別純米」がエドリーによってコーシャ認証されたのは18年のこと。以来、有巣はこの酒を年間6000本ほど製造し、1本(720ミリリットル)当たり1580円で販売している。

エドリーとの親交を深めた有巣は、岐阜を訪れるイスラエル人観光客をもてなしたいと、飛騨高山の朝市の近くにコーシャ・レストランを開いた(みんなイスラエル人観光客の受け入れに力を入れていて、外国人を見掛けると「シャローム」とヘブライ語で挨拶したりする)。レストランではコーシャ認証を受けたさまざまな和食を提供しており、有巣は地元名産の飛騨牛をコーシャ料理で提供することも計画している。

sake210318-03.jpg

田んぼで米作りを手伝うエドリー COURTESY OF BINYOMIN Y. EDERY

日本酒の伝道師として有名なアメリカ出身のジョン・ゴントナーによれば、コーシャ認証を受けた蔵元は18年時点で2社のみだったが、今では旭酒造に加えて大手の菊水酒造など、10社に増えている。

ゴントナーによれば、蔵元は商売だけが目的で杉原千畝関連の商品を開発しているわけではない。しかし、それで新たなビジネスチャンスができたのも事実だ。また現時点でコーシャ認証を受けている蔵元はどこも、質の高い商品を提供している「優れた生産者」だという。

米カンザス大学で日本の歴史と食文化を研究するエリック・ラス教授も、コーシャ認証はブランド品の高級日本酒にとって素晴らしい武器になると指摘する。

「日本酒は国内での売り上げがビールに比べて低迷しており、今では海外市場に大きく頼っている」と彼は言う。「コーシャを守る観光客は小さいながらも新たな市場だ。マーケティングの観点からも賢明なやり方と言える。アメリカの安いコーシャワインに飽きた人たちも、きっと喜ぶに違いない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中