杉原千畝の「命のビザ」と日本酒が結ぶ、ユダヤと日本の絆
KOSHER SAKE POURS INTO JAPAN
日本政府から焼酎や泡盛の普及に努める「焼酎ソムリエ」に任命されているアメリカ出身のクリストファー・ペレグリニによると、「日本の職人や会社は海外のものを取り入れて改良し、日本で成功させるのが上手」だ。その流れで、コーシャ日本酒も生まれた。
ちなみに「獺祭」ブランドを展開する旭酒造は、よりグローバルな市場で勝負する取り組みの一環としてニューヨークのCIA(米国料理学院)の近くに新たな酒蔵を建設中で、完成後はCIAと正式に業務提携する予定だという。
もちろん、杉原千畝ゆかりの日本酒の全てがコーシャなわけではない。八百津町にある「蔵元やまだ」では17年から「杉原ラベル」の純米吟醸酒「玉柏」を販売している。この蔵元は杉原千畝記念館から近く、多くの観光客が訪れる。コーシャ認証は受けていないが、地元の英雄に対する尊敬の念と異文化交流を祝福する日本酒として知名度は高い。
千畝の孫娘で、東京にある記念館「センポミュージアム」を仕切る杉原まどかも、「あの蔵元が祖父のためのラベルをつくってくれたことを光栄に思う」と語る。彼女自身も「千畝」という名の日本酒をつくって同ミュージアムで売り出すことを計画している(ただしコーシャ認証を目指すかどうかは未定)。
いずれにせよ、日本酒が好きならコーシャ認証の有無はさほど重要な問題ではない。イスラエルに本社のあるミズマー・ベンチャーズの共同創業者で、世界有数のコーシャワイン・蒸留酒のコレクターでもあるアイザック・アップルボームに言わせると、あの杉原と何らかのつながりがあるというだけで十分だ。「彼とつながりがあれば、それだけで特別だし、目の前に2種類の日本酒を出されたら、感動のあるほうを選ぶのは当然だ」と言う。
もちろん、コーシャの日本酒があれば一番だ。しかしアップルボームはもっと現実的な選択をする。「私には『1%ルール』というのがあってね。生き方の99%はビジネスで、信仰は残りの1%なんだ。だから大事なのは高品質な酒を賢く買うことであり、そこに信仰上の問題が割り込む隙はない」
日本酒は古来、神道などの儀式で重要な役割を果たしてきたし、今も日本人の祭礼や交歓の場の中心にある。そこにコーシャ認証という新しい要素が加われば、その酒は日本人とユダヤ人が垣根を越えて混じり合うのに役立つはずだ。
主任ラビのエドリーが言う。杉原が教えてくれたのは、民族や宗教、国籍の違いにかかわらず、思いやりの心を分かち合うことの大切さだ。「そこにコーシャの酒があれば、日本でユダヤ教の安息日やハヌカ祭を祝うときに安心して飲める。日本はいい。反ユダヤの人もほとんどいない。だから私たちは堂々とここに暮らし、おめでたい日には、同じ酒で一緒に祝うことができる」