1970年2月、北海道でひとつの街が消滅した
閉山後、尺別を離れて新たな職と生活を求める際にも、さまざまな「縁」を頼りにしたケースが多い。さらに、集団で移住した場合には、そのつながりはより強固なものになり、互いの心の支えにもなったという。
炭鉱閉山から50年。現在、尺別について語る人の多くは、閉山時に子供だった人々だ。
実は彼らは、新たな生活に向けて奔走する大人たちのそばで、その一大事の当事者になりきれず、とりわけ心に深い傷を負った存在だったという。
だが、尺別炭砿のつながりは今も生きている。本書には、かつて尺別で暮らしていた人たちによる証言や回想のほか、当時の写真も数多く掲載されているが、それらは、著者たちが出会ったひとりの関係者から順につながりをたどっていったことで集められたものだ。
(前略)尺別の人びとは故郷の消滅という残酷な形で「故郷喪失」したにもかかわらず、その「縁」をいまでも〈つながり〉として紡いでいる。しかもそれは単なるノスタルジーではなく、新たな〈つながり〉に形を変えていた。(中略)尺別炭砿は彼らを中心に現在も生きている。(18ページより)
炭鉱の物語が現代の日本に教えてくれること
本書は、縁あって尺別炭砿の物語となっているが、同じようにして閉山した多くの炭鉱街で、数え切れない悲喜交々のドラマがあったことは想像に難くない。
その一方で、「故郷喪失」などというのは過去の時代の出来事で、現代日本ではそうそう起きないようにも思える。
......だが。2011年3月11日の東日本大震災では、津波によって消滅した街がいくつもあり、原発事故によって強制的に故郷を離れざるを得なかった人々が大勢いる。
著者たちは20世紀の日本社会を、労働者とその家族による「基幹産業への転換と地域移動の過程」と捉え、なかでも石炭産業に注目しているという。
前作『炭鉱と「日本の奇跡」』で、石炭産業を「生きた先進事例」としていたが、まさに炭鉱から学ぶべきことはまだまだある。
炭鉱とそこに生きた人々の足跡は、疑いなく、現代日本を形作る重要な一片になっているのだ。
『〈つながり〉の戦後史
――尺別炭砿閉山とその後のドキュメント』
嶋﨑尚子/新藤 慶/木村至聖/笠原良太/畑山直子 著
青弓社
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