最新記事
シリーズ日本再発見

1970年2月、北海道でひとつの街が消滅した

2021年02月04日(木)16時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

閉山後、尺別を離れて新たな職と生活を求める際にも、さまざまな「縁」を頼りにしたケースが多い。さらに、集団で移住した場合には、そのつながりはより強固なものになり、互いの心の支えにもなったという。

炭鉱閉山から50年。現在、尺別について語る人の多くは、閉山時に子供だった人々だ。

実は彼らは、新たな生活に向けて奔走する大人たちのそばで、その一大事の当事者になりきれず、とりわけ心に深い傷を負った存在だったという。

だが、尺別炭砿のつながりは今も生きている。本書には、かつて尺別で暮らしていた人たちによる証言や回想のほか、当時の写真も数多く掲載されているが、それらは、著者たちが出会ったひとりの関係者から順につながりをたどっていったことで集められたものだ。


(前略)尺別の人びとは故郷の消滅という残酷な形で「故郷喪失」したにもかかわらず、その「縁」をいまでも〈つながり〉として紡いでいる。しかもそれは単なるノスタルジーではなく、新たな〈つながり〉に形を変えていた。(中略)尺別炭砿は彼らを中心に現在も生きている。(18ページより)

炭鉱の物語が現代の日本に教えてくれること

本書は、縁あって尺別炭砿の物語となっているが、同じようにして閉山した多くの炭鉱街で、数え切れない悲喜交々のドラマがあったことは想像に難くない。

その一方で、「故郷喪失」などというのは過去の時代の出来事で、現代日本ではそうそう起きないようにも思える。

......だが。2011年3月11日の東日本大震災では、津波によって消滅した街がいくつもあり、原発事故によって強制的に故郷を離れざるを得なかった人々が大勢いる。

著者たちは20世紀の日本社会を、労働者とその家族による「基幹産業への転換と地域移動の過程」と捉え、なかでも石炭産業に注目しているという。

前作『炭鉱と「日本の奇跡」』で、石炭産業を「生きた先進事例」としていたが、まさに炭鉱から学ぶべきことはまだまだある。

炭鉱とそこに生きた人々の足跡は、疑いなく、現代日本を形作る重要な一片になっているのだ。


〈つながり〉の戦後史
 ――尺別炭砿閉山とその後のドキュメント』
 嶋﨑尚子/新藤 慶/木村至聖/笠原良太/畑山直子 著
 青弓社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

japan_banner500-season2.jpg

【話題の記事】
京都は40年前に路面電車を廃止した、大きな過ちだった
→→→【2021年最新 証券会社ランキング】

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

SUBARU、米関税で4━9月期純利益44%減 2

ワールド

高市首相の台湾有事巡る発言、中国「両岸問題への干渉

ワールド

台風26号、フィリピンで4 人死亡 週半ばに台湾へ

ワールド

EXCLUSIVE-米FBI長官、中国とフェンタニ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 10
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中