最新記事
シリーズ日本再発見

1970年2月、北海道でひとつの街が消滅した

2021年02月04日(木)16時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

写真は本文と関係ありません Slavica-iStock.

<戦後復興期まで日本の基幹産業だった石炭産業。だが、政府が石炭企業の撤退を推進し、全国で炭鉱の閉山が相次いでいく。その後、そこに暮らしていた人々はどうなったか。「故郷喪失」が過去の出来事と切り捨てられない理由とは>

かつて国内に1000以上もあった炭鉱も、現在では北海道釧路市のただ1鉱を残すのみとなった。それゆえ「終わった産業」だと思われがちだが、実はそうではない――という記事を以前掲載したところ、予想を遥かに超える反響があった(日本の炭鉱は「廃墟」「終わった産業」──とも限らない)。

これは、日本の炭鉱とそこで生きた人々の歴史的意義、そして今日における可能性に光を当てた『炭鉱と「日本の奇跡」――石炭の多面性を掘り直す』(中澤秀雄/嶋﨑尚子・編著、青弓社)を取り上げた記事で、炭鉱という存在が、今なお人々の関心を呼ぶことを窺わせた。

2020年、これと対をなす本が新たに刊行された。

前作とも共通する社会学研究者たちによる『〈つながり〉の戦後史――尺別炭砿閉山とその後のドキュメント』(嶋﨑尚子/新藤 慶/木村至聖/笠原良太/畑山直子・著、青弓社)だ。

1956年以降、928の炭鉱が閉山し、20万人が離職した

石炭産業は、戦後復興期までの日本の基幹産業だった。

北海道や九州には大規模な産炭地が誕生し、特にもともと開拓地であった北海道には、全国各地から大勢の労働者がやって来た。彼らとその家族たちを受け入れることで、炭鉱を中心とした新たな街が形成されていった。

敗戦後には、鉄鋼業とともに経済復興の主軸を担った。大規模な労働力と資材が重点的に配分され、石炭の増産体制が整えられて、焼け野原となった国土を甦らせた。

石炭産業は、その後の高度経済成長、さらには現代日本の礎を築いたと言ってもいい。

だが、1950年代の後半から、製造業をはじめとする新しい成長産業が隆盛となり、石炭産業は衰退へと転じる。政府の石炭政策の下で全国の炭鉱がひとつまたひとつと閉山し、そうして石炭産業は、長い年月をかけて静かに終焉へと向かっていったのだ。

1956年以降に閉山した炭鉱は928。当然ながら、そこで働いていた労働者たちは離職を余儀なくされた。その数、20万人。

炭鉱の街から炭鉱がなくなれば、そこにはもう生きる術がない。彼らは家族とともに街を離れ、生活と人生のすべてを変えなければならなかった。

1964年の東京オリンピックを成功に導いたのは、「金の卵」と呼ばれた集団就職の若者や、農村からの出稼ぎ労働者だと言われてきた。だが、炭鉱閉山によって半ば強制的に転職と移住を強いられた炭鉱離職者たちとその家族の存在を忘れてはならない、と本書は指摘する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

「ドイツ銀がリスクを軽視」、元行員の主張をECB検

ワールド

中国、牛肉輸入調査を2カ月延長 貿易制限先送り

ワールド

米中首脳電話会談は米側が提案、前向きで友好的だった

ワールド

中国習主席、トンガ国王と会談 新たな投資を約束
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中