「デジタルファースト」で岐路に立つ日本の「はんこ文化」
サイン文化への転換は?
移民受け入れ拡大を控え、電子化以前に、ガラパゴスな印鑑文化からグローバルスタンダードなサイン文化への転換も考えなければいけないのかもしれない。印鑑登録制度を強化すればいい、あるいは、このまま「郷に入れば郷に従え」でいいという考え方もある。ともあれ、少なくとも現場では、印鑑の国際化が既に進んでいるようだ。
筆者が暮らす長野県茅野市は、人口5万5000人余り、印鑑専門店が2軒しかない一見国際化とは縁がないような地方都市だが、それでも、その1軒の主人は「全体の売上は落ちていますが、外国人のお客さんはすごく増えています」と言う。
外国人の印鑑は漢字の当て字で作るか、カタカナで作るのが一般的だ。日本人の名字は多くても漢字4文字といったところだが、外国人の場合は「欧米の方ですと文字数が多い名前が多く、限られたスペースに彫る難しさがあります。逆に東南アジアの方などにみられる極端に画数が少ない名前を彫るのも、簡単ではありません」という。
例えば、「ウィリアムズ」という名字を全て彫るのは難しい。そこで、「ウィル(Will)」などと省略するケースもある。ただ、自治体によって省略を認めたり認めなかったりと対応にバラツキがあり、注意が必要だ。このように、ただでさえ複雑であいまいな日本の印鑑制度が国際化に対応しきれていないとなれば、外国人の増加と共に住民登録手続きや民間の契約で混乱が生じる恐れもある。
ただ、「サインに馴染みのない日本人が毎回同じサインを書くのは難しいと思います」と茅野市の印鑑店主人も言うように、反対に日本人がサイン文化に馴染む難しさもあろう。
これらの点を考えれば、サイン中心にシフトするという過渡期を経ずに、「はんこ文化」を維持しつつ段階的にデジタル化を進めるというのが、今のところの流れなのではないだろうか。平井大臣の「押印が民間で直ちになくなることはない」というコメントの真意は、そんなところだと思う。
外国人観光客には大人気
最高級の印鑑の材料と言えば、象牙だ。国際社会からは、この象牙の印鑑がアフリカゾウの密漁の温床になっているという非難もある。ただ、日本は絶滅の恐れがある野生動物の国際取引を禁止する「ワシントン条約」を批准しており、現在は象牙の輸入が全面禁止されている。まだ国内に禁輸前の象牙のストックが残っているので、現時点では象牙の印鑑を作ることは可能だが、使い切れば終了。業界では、あと1年もたないのではないかとも言われている。