最新記事
シリーズ日本再発見

世界に広がる「うま味」、でも外国人に説明できますか?

2018年06月28日(木)19時35分
井上 拓

アジア2位レストラン「傳」店主が語る、「うま味」普及のカギ

2018年の「アジアのベストレストラン50」で日本国内最高位の2位を獲得した日本料理店「傳」。

海外からの注目度は高まり、アジアをはじめ、ヨーロッパやアメリカ等、ディナーの8〜9割が外国人客の予約という日も少なくない。いま海外に影響力のある料理人の1人、店主の長谷川在佑さんに「umami」を提供する最前線の立場として、外国人客の反応やそのスタンスを聞いた。

「私と交流のある海外のシェフたちは、"umami"について理解してきていると思います。ただ広い視野で見れば、和食と言われても、ラーメン、お寿司、天ぷら......と答えるお客様がまだまだいるように、"umami"についても言葉は聞いたことはあるけど、それが何かはわからない。一般的には、日本人の私たちが考えているほど、広がっていないように感じます」

傳のだし汁は、かつお節がベースで、昆布を使わない。長谷川さんが関東出身という理由もあるが、かつお節のだし汁に、夏ならとうもろこし、冬ならかぶ、といった季節ごとの野菜を組み合わせた、だし汁を使っているという。

「昆布は外国人に馴染みがなかったりもするので、かつお節の香りの華やかさや、口に含んだときのシャープさを活かしながら、季節の野菜とともに、だし初心者の外国人のお客様にもわかりやすいように仕上げています。」

その根底には、自分の国にある食材や調味料は親しみやすいので、だし汁だけよりも、それらと組み合わせたほうが、おいしさや「うま味」を感じやすいはずという長谷川さんの考えがある。

「大切なことは、知識やルールというより、どのように楽しんでもらえるのか、だと考えています」

謙虚な姿勢で長谷川さんは丁寧に話してくれたが、「うま味」は、そして和食はかくあるべしといった、一方的な伝え方はそこにはない。一般の人たちにも親しんでもらうには、その国ごとに存在する「うま味」を日本的な仕立てで楽しみながら感じてもらえる機会やきっかけづくりこそ大切だと考えているようだ。

「うま味」は世界中にあるもの。かつお節は魚のだしであり、野菜のだしも世界各国に共通のものがたくさんもある。トマトやチーズは「うま味」の塊であり、例えばイタリア人にとっては小さい頃から親しむ日常的な料理の中に「umami」は凝縮している。

普及のポイントは、やはり相手の立場に寄り添うことなのだろう。

実は「umami」という言葉が広まるだけではなく、実際に「うま味」を広く楽しんでもらうためのヒントは、和食という文化の原点に隠されているのかもしれない。おもてなしの心によって、相手の立場を想像しながら楽しませていく――それが和食の伝統的な魅力でもあるからだ。

そんな心づかいが、今こそ求められているのではないだろうか。

japan180628-4b.png

©Umami Information Center

japan_banner500-season2.jpg


ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア高官、ルーブル高が及ぼす影響や課題を警告

ワールド

ゼレンスキー氏、和平協議「幾分楽観視」 容易な決断

ワールド

プーチン大統領、経済の一部セクター減産に不満 均衡

ワールド

プーチン氏、米特使と和平案巡り会談 欧州に「戦う準
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中