最新記事
シリーズ日本再発見

世界に広がる「うま味」、でも外国人に説明できますか?

2018年06月28日(木)19時35分
井上 拓

©Umami Information Center

<日本人が発見した第5の味覚「うま味」は「umami」となり、和食ブームとともに海外に広まった。だが日本人の間ですら誤解や不理解が多い国際語。実際にどのくらい理解され、どの程度普及しているのだろうか>

「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのが2013年。それから5年の間に、日本人の伝統的な食文化は、欧米をはじめとする海外の人たちの間で注目を集め、これまで以上に楽しまれるようになった。

和食や日本料理が世界へ広がるのと同時に、「umami」という日本発の国際語も普及しつつある。たしかに、昨年「うま味(旨味)」を売りにするアメリカのハンバーガーレストランが日本上陸したり、訪日外国人観光客による#umamiのSNS投稿も一部で目にする機会が増えてきた。

だが「umami」は実際のところ、どの程度世界に広がってきているのだろうか。そもそも「うま味」とは何か、正しく理解されているのだろうか。

何が「うま味」か、日本だけか――日本人も誤解しがち

ご存じの読者も多いかもしれないが、まずは「うま味」について簡単に整理しておきたい。

1908年、日本人科学者の池田菊苗博士が昆布だし汁の中から、その主要な味の成分として、アミノ酸の一種であるグルタミン酸を発見。論文の中で、それを「うま味」と命名した。

次いで1913年にかつお節からイノシン酸、1957年に干し椎茸等に含まれるグアニル酸の各「うま味」成分が、いずれも日本の科学者たちによって発見されていった。

2002年には、舌の味蕾(みらい)に「うま味」を感じる受容体があることが科学的にも実証され、これまでの基本味とされる「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」に続いて、「うま味」が5番目の味覚として認定されることになった。

とくに和食で欠かすことのできないだし汁は、昆布のグルタミン酸とかつお節のイノシン酸の「うま味」が純粋に凝縮し、相乗効果まで生み出す"うま味溶液"と呼べる象徴的な存在。成分発見の経緯や古くから親しむ食文化も重なり、日本人が「うま味」を身近に感じられるのは、こうした背景もあるのだろう。

とはいえ日本人の中でも、「うま味」を混同したり誤解したりしている人が実は多い。

日本語では、料理の味を表現するのに「うまい(美味い、旨い)」という言葉を用いることから、「この料理のうまみが...」のような会話では、おいしさ全体を指しているのか、基本味の味質のことを指しているのか、使い分けずに話していることも。

さらに言えば、日常的に感じているはずなのに、どれが味質としての「うま味」なのか、なかなか説明できない人がいるのも現実ではないだろうか。

研究の成果から「うま味」には、舌全体に広がって唾液の分泌を促し、持続性があることがわかっている。例えば、上質なだし汁を飲んだ後、甘味、塩味、渋味、苦味等を感じ、それらの味覚が消えた後に、舌や口内に余韻のように長く残るものが「うま味」。あくまでも、おいしさを構成する要素の1つである、ということだ。

また一部のアミノ酸成分の総称を「うま味」と呼ぶとすれば、これは昆布やかつお節等の日本の食品や調味料だけに限ったことではない。発酵や乾燥、塩蔵(塩漬け)のような加工が施され、その過程でグルタミン酸等の「うま味」物質が増えた食品や調理料は、世界中に多数存在することを前提として踏まえておきたい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中、高市首相と習国家主席の会談を31日開催で調整

ビジネス

トランプ氏「ガザ停戦脅かされず」、イスラエルは空爆

ワールド

エベレスト一帯で大雪、ネパール・チベット両側で観光

ビジネス

アディダス、北米の増収率が鈍化 関税が重しに
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 2
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理に押し上げた「2つの要因」、流れを変えたカーク「参政党演説」
  • 3
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 6
    「ランナーズハイ」から覚めたイスラエルが直面する…
  • 7
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    怒れるトランプが息の根を止めようとしている、プー…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中