夏に初詣も!? 御朱印ブームだけじゃない神社界の新潮流
日本各地に広がる寺子屋の神社版
神社界の中には「神道は宗教ではない」という考え方がある。神道は日本が古来奉じて来た伝統的な考え方なのであり、他の宗教とは一線を画す存在だというのが主旨である。
その是非はともかく、いわゆる「カミサマを信じなさい」的な形ではなく、日本人の生活に根ざした伝統行事を再発見・再評価することで神社への関心を高めようという取り組みも始まっており、ここで紹介しておきたい。
そのような潮流の中で最も注目すべき存在は、三社祭で有名な東京・浅草の浅草神社。同社は祭礼を大改革する一方、「社子屋(やしろこや)」と「夏詣(なつもうで)」という新たな取り組みで脚光を浴びている。その仕掛け人でもある禰宜の矢野幸士さんはこう語る。
「平成24年(2012年)から始めた社子屋はいわば寺子屋の神社版。当初は数名の参加が目標でしたが、今では常に50~60名が来られます」
そのプログラムは実に多岐にわたり、古事記の朗読や神棚の祀り方といった神道に関する勉強もあれば、茶道、投扇興(とうせんきょう)や勾玉(まがたま)製作といった体験もの、僧侶を招いた座禅講座まである。
「神社を定期的に人が寄り合うコミュニティの場にすると共に、我が国や浅草の伝統文化を浅くとも広く継承する場にしたいと考えました。参加者の世代間交流を図る事もひとつの目的としています」
この取り組みは東京都目黒区の上目黒氷川神社では「社子屋」、大阪府藤井寺市の道明寺天満宮では「宮子屋(みやこや)」、北海道帯広市の帯広神社では「杜小舎(もりこや)」と、時に名前を変えて波及している。
新しい風習=「夏版の初詣」を作る
一方の「夏詣」はさらに革新的な取り組みだ。
「初詣、祭礼など日本人の多くが神社と関わる機会は年に2~3回ですが、そこにもう1回を加えることを大きな目的としました。年末年始には、12月31日の年越の大祓で心身を清め、新年を迎えて初詣でお参りします。同じように、6月30日の夏越の大祓で半年の罪穢れを祓いますので、その翌日、残り半年の始まりの日も神社・仏閣をお詣りお参りする機会を作ります。いわば夏版の初詣です」
つまり「新しい日本の風習」を作ってしまおう、というのである。
「夏の時期、当社は閑散期を迎えます。この時期にも参拝者を増やせないかと思案していて、当初は境内で流しそうめん大会を企画していました。その中で、日本や浅草の夏の風習や習慣を掘り起こしていくと、今に伝えていかなければならないことが多くあり、それらを踏まえた取り組みの必要性を感じたのです。併せて、7月1日は富士山を始めとする山岳信仰の山開きの日でもあり、また7日後は同じく古くから親しまれている七夕です。この期間に神社・仏閣に詣でることの大切さを伝えていきたいと考えました」
初めての実施は2014年の夏。以来、多くの協賛者や協力団体を加え、浅草神社の他にも「夏詣」を実施する社寺が50を超えた。
内容はいわゆる夏の縁日的な出店に加え、各種ライブコンサートやうなぎ奉納祭、玉砂利の参道をライトアップした天の川プロジェクトなど「夏」をキーワードにした伝統文化を現代的に解釈した催しで目白押しだ。矢野さんはこう続ける。
「神社は、地域のコミュニティの場です。昔は地域の祭礼のために人が集い、情報を交換し共有しました。だからこそ"社会"は"社で会う"という意味も含んでいるのではないでしょうか。神社がそうした機能を持つためには、より多くの人が集う仕組みを地域と連携して作り上げることが肝要だと思います」
神社の新潮流はまだまだ始まったばかりである。
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