夏に初詣も!? 御朱印ブームだけじゃない神社界の新潮流
神社の行事は、氏子や崇敬者からの初穂料という形の金銭をお納めいただいて運営されるのが常道だ。氏子とは氏神に対する概念で、血縁的共同体が同一の神を祖と崇めることに端を発するが、現在はいわゆる産土神(うぶすながみ)という概念との混同が進み、特定の神社とその神様が守るエリアに住まう人々を呼ぶ名称となっている。
すなわち、インターネットの普及により、規模が大きくない神社でもその取り組みの魅力によって「ファン」を獲得できれば全国、あるいは世界から資金を得ることができる時代になったと言える。「資金」と書くと生臭く聞こえるかもしれないが、時に文化財に指定される古い建築物や大木が生い茂る境内の景観を維持するには、小銭の賽銭だけでは不可能なことは社会人なら容易に想像できるだろう。
【参考記事】沖縄の護国神社(1)
女性をターゲットとする取り組みが奏功
いわゆる神社ブームは、女性をターゲットとする神社側の取り組みが功を奏して続いているように思える部分がある。例えば都内では、飯田橋の東京大神宮が女性向け雑誌などに「縁結びの神社」として多数取り上げられ、平日から参拝客が後を絶たない。
同大神宮は大正天皇が皇室で初めて宮中賢所で婚儀を行ったことを記念して一般向けの神前結婚式を創始した神社として知られ、年間600組ものカップルが誕生する。隣接する式場・マツヤサロンでは和の風情を取り入れた披露宴を行えることで不動の人気を得ており、雑誌『日本の結婚式』でもたびたび大きく紹介されている。
また、女性に人気の神社としては山形県南陽市の熊野大社がある。同社では本殿裏に3羽のうさぎが隠し彫りされていることにちなみ、2011年から毎月1回満月の夜に「月結び」と題した縁結び祈願を行っている。
参列者には限定の「たまゆら守」なるかわいらしいお守りが授与されるほか、特製のロゼワインを御神酒としていただくことができる。西洋でロゼワインのグラスに月を映すと恋が成就するという言い伝えにちなんだものだ。行事を発案・企画した権禰宜の北野淑人さんはこう語る。
「当時から3羽のうさぎを探しにお若い世代の方がたくさん来られていましたから、せっかくの機会なので職員が神社の説明をさせていただいていました。参拝者とお話する中で印象的だったのが、多くの方がご縁を求めているけれど、なかなか巡り会えていないこと。明らかに皆さんは縁結びのご利益を求めていました。ならば皆様に満足いただけるような神事を執り行うべきだと考えたのが月結びを始めたきっかけです」
月によってばらつきはあるものの、参加者は毎回150名前後。夏には200名を超えることもある。9割が女性だが最近では男女での参加も増加中。年齢は30代が多い。
「参加されて、ご縁が結ばれたご報告を数多くいただいています。最近では相手の方と月結びに参加される方が増えているように感じますし、その後当社で結婚式を執り行っていただいた方もたくさんいらっしゃいます」
統一感のあるデザインで神社をプロデュース
一方、昨年12月に「川越氷川祭の山車行事」を含む33件の「山・鉾・屋台行事」がユネスコ無形文化遺産に登録された川越氷川神社(埼玉県川越市)は、絢爛な祭礼文化を継承する一方で、デザインコンシャスな取り組みで注目を集めている。
まず当神社のウェブサイトは「赤い糸」を思わせる線文字によるかわいらしいイラストにより全ページがデザインされており、写真中心の構成が多い他の神社とは一線を画している。
また、NHKの大人気子ども番組『みいつけた!』のアートディレクションを手がける大塚いちおデザインによる絵馬は、なんとも言えない「ゆるかわ」感が大好評。他にも、併設される氷川会館の中にある「むすびcafé」は内装を家具デザイナーの小泉誠、グラフィック全般を折形デザイン研究所の山口信博が監修するなど、境内や授与品、神社のコンセプト全体が統一感のあるデザインでプロデュースされている。
そしてそれは視覚的な効果に留まらず、神道に特徴的な「むすび」の観念や「神饌(しんせん)」に見られる食物を大切にする文化などを発信する取り組みにも昇華されている点が特筆される。
【参考記事】「あの時代」と今を繋ぐ 旧日本領の鳥居