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日本のおもてなしは「ピクトグラム」に頼り過ぎ

2017年03月31日(金)17時33分
安藤智彦

「外国人対応にピクトグラムを」は半世紀以上前と同じ議論

さて話を戻そう。視覚情報のユニバーサルデザイン化は、使用言語がバラバラな観光客対応としては至極真っ当な施策。だが、日本におけるピクトグラム普及は既にかなり進んでいる。なぜいまさら見直すのか。これまで使ってきたデザインではダメなのか。

今回経産省が刷新に踏み切る背景の1つには、外国人からの「誤解を招く」リスクを低減させる思惑がある。たとえば温泉のピクトグラムは、そもそも湯船に入る文化のない国の人々にはなかなか発想しにくい。立ちのぼる湯気を類推できても、「焼肉店」「喫茶店」など、熱い飲食物を提供する店舗のことかと誤解するケースもある。

また、時代の変化に応えるという側面もある。たとえば、中東諸国やインドネシア、マレーシアなどのイスラム教国からの観光客も急増するなか、彼らにとって必須のスペースである祈祷室。国際線の発着する空港では見かける機会が増えてきたが、イスラム教徒にとっては必須の情報だ。海外の主要駅や空港、公共施設では、膝をつき頭を下げている様子をデザインした「祈祷室」ピクトグラムがかなり普及している。

このほか、一般の旅行客にとって有益な通信インフラのひとつ「無線LAN」。日本でも利用できる場所が拡大していることから、ピクトグラムを統一したほうがより親切なのは間違いない。 

訪日外国人に対する言葉の問題をクリアするために、ピクトグラムに一役買ってほしい――振り返れば納得の理由ではあるが、半世紀以上を経ても、同じ議論をしているような気がしてならない。ピクトグラムが他国でも類を見ないほど充実しているのは、裏を返せば「言葉で伝えることができない」ことの裏返しでもあるからだ。

イー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパンが発表している国別英語能力ランキング「EF EPI」によれば、2016年の日本の順位は72カ国中35位。前年よりランクを落としているうえ、アジア圏でも10番目という位置づけだ。

2005年から10年間の英語能力テストTOEFLの結果をみても、日本の「英語後進国」ぶりは歴然。英米の元植民地で、すでに英語が公用語となっているインドやフィリピン、マレーシアだけでなく、国家を挙げた英語教育に力を入れている韓国、中国、インドネシア、ベトナムにも遠く及ばず、モンゴルにも水をあけられている状況が10年以上前から続く。その差は埋まらず、広がる一方だ。

時代に合わせたピクトグラム刷新は大いに結構だが、その目的はあくまで情報提供の一助。自国民の語学力の乏しさを裏打ちするような存在となってしまっては残念すぎる。せめてピクトグラムの意味くらいは、英語で説明できるようになっておきたいものだが。

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