最新記事
シリーズ日本再発見

日本のおもてなしは「ピクトグラム」に頼り過ぎ

2017年03月31日(金)17時33分
安藤智彦

<実は日本は案内用図記号(ピクトグラム)の先進国。独自の進化を遂げ、世界にも影響を与えてきた。いま、観光需要の増加に対応するため、一部のピクトグラムを見直そうと政府が音頭を取っているが、英語能力の低さはそのままでよいのか>

【シリーズ】外国人から見たニッポンの不思議

湯船から立ち上る3本の曲線。日本人ならおそらく目にしたことがあるであろう、「温泉」を意味する案内用図記号(ピクトグラム)だ。昨夏から、このお馴染みの温泉を含めたピクトグラムの「リニューアル」が取り沙汰されてきた。

JIS(日本工業規格)で統一規格となっている案内用のピクトグラムは、現在136種類。今年3月には、経済産業省がパブリックコメントを含めた意見を集約し、7種類のピクトグラムに対し修正案を提示している

背景にあるのは、直前に迫った2020年の東京五輪の存在、そしてここ数年で「爆増」している外国人観光客の伸びだ。2020年に向け、まだ勢いが衰えていない海外からの観光需要を受け、「おもてなし」の一環としてピクトグラムを見直そうという議論が出てきている。

そもそも欧州発祥とされるピクトグラム。日本でも見られるようになったのは、20世紀半ば以降のことだ。だが、いまや上記の温泉はもちろんのこと、「トイレ」「改札口」「インフォメーションセンター」「エスカレーター」など、目にする場所は空港や駅などの主要ターミナルにとどまらない。ピクトグラムのない観光地や商業施設を見つけるほうが難しいと言っても過言ではないほど、普及が進んでいる。

【参考記事】新宿―東京は何線で? 日本の交通案内は分かりやすいですか

ピクトグラム自体は輸入されたアイデアだが、中国からもたらされた漢字同様、国内で消化して独自の進化を遂げた「文化」とも言える。そしてその歴史は、半世紀以上前に開催された1964年東京オリンピックまで遡る。

当時の日本は戦後復興が進んでいたとはいえ、高度成長期へようやくさしかかったばかりの段階だった。海外への旅行者が少ないのはもちろん、日本に訪れる外国人も限られていた。

1960年の訪日外国人数はわずか15万人ほど。外国人自体が珍しいだけでなく、英語を含めた外国語を話せる人材も少ない。そこに出場選手やスタッフ、応援に来る関係者など100カ国近い国々から一挙に外国人がやってくる状況となってしまった。

そこで、東京オリンピックのデザイン専門委員会が主導し、競技種目ごとの内容を盛り込んだもの、あるいはトイレや公衆電話といった公共施設や設備を示すピクトグラムが考案された。

オリンピックの競技種目を表現するピクトグラムが体系的に作られたのはこれが世界初。継続的な展開や発展を主眼としたため、デザイン自体の著作権を放棄したこともあり、その後もオリンピック開催各国がデザインを変化させて受け継ぐスタイルが生まれることとなった。

日本発祥で世界標準となった例もある。「非常口」のピクトグラムだ。1970年代に日本で開催された「非常口標識コンテスト」。このイベントへの出品作品をベースに、緑色でお馴染みの非常口マークのピクトグラムが生まれた。87年に国際規格ISOにも選ばれ、海外でも多く使用されるようになった経緯がある。

【参考記事】「上に行くエスカレーター?」と迷わせたら、デザインの負け

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

東京海上、純利益予想を下方修正 外貨間為替影響やア

ビジネス

農林中金、4ー9月期の純利益846億円 会社予想上

ワールド

EUは来月の首脳会議で融資承認を、ウクライナ高官「

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、財務相・日銀総裁会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中