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ニューズウィーク日本版はなぜ、「百田尚樹現象」を特集したのか
「リベラルはおもろないねぇ」への挑戦
企画にゴーサインが出てから、取材を進める上でのスタンスを「批判」ではなく「研究」と決めました。「百田人気を支えるもの」について、是非を問うのではなくフェアに研究しよう、と。仮説を立ててそれを立証するための素材を集めていくのではなく、「日本国紀は誰が読んでいるのか?」という小さな問いからスタートし、そこに連なる素材を探しながら一つ一つ検証する。演繹法ではなく、帰納法。
そういうスタンスの取材記事に、特集『沖縄ラプソディ』(2019年2月26日号)に長編ルポを書いてくれたノンフィクションライターの石戸諭氏はぴったりでした。前回も石戸氏は、沖縄の辺野古埋立てによる新基地計画に賛成か、反対か、なぜそう考えるのか、賛否が分かれる問題について双方から丁寧に聞き取りました。今回の特集も、企画段階から「百田研究」というアングルを提案してくれていた石戸氏に執筆をお願いすることにしました。
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石戸氏の、「批判」ではなく「研究」するという取材姿勢は、今回の特集記事を根底から支えています。石戸氏は百田氏に取材を依頼する際にも、自分とは「政治的な価値観や歴史観は異なる」と断った上で、百田氏は本当のところは何を考えていて、なぜそう思い、行動するのかを知りたい、と伝えました。
取材の目的を「自分と価値観の違う相手を論破する」こととせず、相手がなぜそう思うのかを「知りたい」という姿勢で聞こうとする。単に批判したいだけであれば、当人たちに取材せずにパソコンに向かって批判ありきの評論を書くこともできますが、私たちがやりたかったのは「批判」ではなく「研究」です。石戸氏の取材意図は、記事中にもこう書かれています。「インタビューでも主張すべきはしたが、ディベート的に言い負かすための時間にはしなかった。彼の姿勢を丁寧に聞くことが、私が知りたい現象の本質を浮かび上がらせると考えたからだ」。
また、記事中で紹介したように、百田氏がレギュラー出演しているネット番組『深相深入り!虎ノ門ニュース』を制作するDHCテレビの山田晃社長は「リベラルはおもろないねぇ」と言います。じゃあ面白いものを作るしかない、作ってみたい、という気持ちもありました。成功したかどうかは読者の判断に委ねるしかありませんが、計20ページという誌面を割いた特集は、そうした挑戦でもありました。
本特集に対して頂いているコメントは、可能な限り拝読しています。反応を含めて、百田現象を読み解く鍵となると思うからです。発売前から、百田氏ファンからの「センセ、凄い!!」というコメントもあれば、百田氏を取りあげたこと自体を批判する声もありました。特集しただけでハレーションが起きることも、百田現象の一端なのだと思います。読んでコメントしてくださっている方は、スタンスの違いにかかわらず、心から有難うございます(ヘイトスピーチは論外ですが)。
この特集は、まずは捉え切れていなかった事象について知ろうとし、可視化しようという試みでした。「百田尚樹現象」とは何なのか。2カ月以上の取材を経て、石戸氏は16ページの長編ルポをある「結論」で結びました。記事中に提示した素材のさらなる分析も含めて、今後の議論の一端になれば、とても嬉しいです。
――編集部・小暮聡子
*石戸氏ご自身が取材の意図についてTBSラジオで話された内容は、こちらから視聴できます。
※6月4日号(5月28日発売)は「百田尚樹現象」特集。「モンスター」はなぜ愛され、なぜ憎まれるのか。『永遠の0』『海賊とよばれた男』『殉愛』『日本国紀』――。ツイッターで炎上を繰り返す「右派の星」であるベストセラー作家の素顔に、ノンフィクションライターの石戸 諭が迫る。百田尚樹・見城 徹(幻冬舎社長)両氏の独占インタビューも。
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