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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
ウォンビンがあの人に......
『ディープブルー』『アース』など、ネイチャードキュメンタリーで定評のある英BBCが、6年の歳月と制作費35億円をかけて完成させた映画『ライフ―命をつなぐ物語―』が今日(9月1日)、日本公開された。
世界中の24の動植物(ほとんどが動物)の生態が、ぎゅっと凝縮された90分の中で次々と現れていく。かなりの至近距離で撮られた美しい映像は、新たな撮影テクニックを駆使したもの。自分が小さくなったり大きくなったりしてその動物と一緒に暮らしているような気持ちにさせてくれる。
映像の素晴らしさはもちろん、ゴリラ、イルカ、ゾウなどよく知った動物の意外な行動、そしてよく知らない動物たちの習性に驚かされる。温泉に入る姿が有名な地獄谷(長野県)のニホンザルも登場するが、みんなが仲良く入浴しているわけではなくて、強い一族のみが入れるという話は寡聞にして知らなかった。
ドキュメンタリーでは意外に重要なのがナレーションだ。以前、『北極のナヌー』を観た時には、稲垣吾郎(SMAP)のお世辞にもいいと言えないナレーションのおかげで、映画の魅力がかなり減殺されていてがっかりした。
『ライフ』の日本公開版では、松本幸四郎と松たか子の親子がナレーションを務めているが、この点はよくも悪くもなく、という感じ。動物たちのエピソードをつなげて一つの大きな物語として展開させていこうとする語りは、少しうるさく思えるかもしれない。ただしこれは2人の声や話し方ではなく、脚本の問題だろう。
もう一つ気になったのは、映画の最初と最後に出てくる解説の字幕だ。動物たちの姿に何を思うかは、観客1人ひとりに任せてもらいたかった。多様な動物たちの生になんらかの結論を与えようとする、押し売り的な文言は圧倒的な自然の前では少々陳腐に思えてしまう。それでも、映画のチカラを感じさせてくれる、子供に見せたいと思える、素敵な作品であることは間違いないが。
映画を観ていると、こうした細かいことが引っかかり集中できなくなることが多々ある。例えば韓国で大ヒットしたウォンビン主演の『アジョシ』。9月17日に日本公開されるこの作品、ストーリー展開もいいし、映像も迫力がある。でも映画の前半、ウォンビンがどうも「あの人」に見えてしまうのだ(以下、映画を見に行く予定で、作品に集中したい人は読まないでください)。
『アジョシ』は、都会の片隅で質屋を営んでいる元特殊部隊要員のテシク(ウォンビン)が、自分を「アジョシ(おじさん)」と慕う少女を救うために犯罪組織と戦うアクション&サスペンス作品だ。後半に入り、戦いを決意するテシクは自らの髪を切り落とすが、それまでの前髪が顔にかかった長髪スタイルが、英会話講師リンゼイ・ホーカー殺害事件の市橋達也被告を彷彿させるのだ。黒いパーカーをかぶり、逮捕される時のあの姿だ。
ウォンビンが市橋達也なんて......。
――編集部・大橋希
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