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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
お砂場で死と愛を語る
初めて見るものに、「これは何?」
ダメと言われたら、「どうして?」
スーツ姿で出勤する父に、「パパはどうしてカイシャに行くの?」
小さな子供と一緒にいると、しょっちゅう「どうして?」「これは何?」と質問される。こちらもうまく答えられないことが多々あるが、この「?」は子供にとって言葉を覚え、物事や社会の成り立ちを理解し、世界と自分の関係を認識していく大切な一歩だ。そこに自分で考える、という作業が加わると「哲学」になる――その姿を見事にとらえたのが、フランスのドキュメンタリー映画『ちいさな哲学者たち』。日本では7月9日に公開される。
以前『14歳からの哲学』という本が話題になったが、この映画はいわば「4歳からの哲学」だ。幼稚園児に哲学なんて無理でしょう? と思うかもしれないが、これが結構いけるのだ。
フランス・セーヌ地方の教育優先地区(ZEP)にある幼稚園で、年中(4歳)~年長(5歳)にかけての2年間、子供たちは月に2、3回、パスカリーヌ・ドリアニ先生の「哲学のアトリエ」に参加する(ZEPは社会・経済的に恵まれない世帯が多く、子供の教育支援が必要とされている地域で、実際には移民家庭が多い)。その授業の様子を追ったドキュメンタリーだが、子供の持つ可能性、それを引き出す大人の役割、一つの言葉が意味するものの大きさ、そして人種や差別といった社会問題まで本当にたくさんの事柄を考えさせられる。
180時間に及ぶ撮影内容をできるだけ詰め込もうとしたためか、尻切れとんぼのように思える場面がいくつかあったのは残念。それに子供モノと動物モノは感情に訴えやすい点で有利なのは確かだ。しかしそれらを差し引いても、全体として愉快で見ごたえのある作品に仕上がっている。
友だちと恋人の違いは?
貧しいってどういうこと?
自由って何?
次々と出される課題に、見ている側も頭をフル回転させなくてはという気にさせられるし、自分の発想の貧しさに焦ったりもする。そしてやっぱり感心させられるのが子供たちの成長ぶり。最初は口数も少なく、てんでばらばらな発言をしていた子供たちが、何度も授業を受けるうちにだんだん友達の話に耳を傾け、そこから話を膨らませたり、自分の考えを述べたりできるようになる。議論が白熱したり、「なるほど」とうならされる言葉を口にする子供も出てくる。パスカリーヌ先生によれば、親と子供が家庭でもさまざまな事柄について話し合うようになったのもうれしい副産物だったようだ。
印象的なのは、「お砂場で死と愛について話したの」という女の子の言葉。
ちょっと素敵ではないか?
――編集部・大橋希
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