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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
キルギス非常事態、歴史は繰り返す
中央アジアのキルギスで7日に起きた反政府暴動。野党勢力は政府庁舎や国営テレビを占拠し、「臨時政府」を樹立すると宣言、大混乱になっている。
キルギスには米軍、ロシア軍、両方の軍事基地があり、アメリカのアフガニスタンでの対テロ戦争で後方支援の拠点である重要な国だ(アフガニスタンからのヘロインの密輸ルートでもある)。アメリカ、ロシア、国境を接する中国の間で、地政学的な重要拠点として、その動向はずっと注目されてきた。
ただその不安定ぶりはこれまでもちょくちょくメディアでも報道されてきた。政権が崩壊するのも時間の問題だったようだ。
クルマンベク・バキエフ大統領(05年のキルギスの政変で就任)は米露の軍事基地を利用するししたたかさを持っていた。もともと中央アジアに米軍基地が存在することを快く思っていなかったロシアと中国から、米軍基地を封鎖するよう圧力をかけられてきた。そして09年にロシアから多額の援助を受け、米軍が十分に基地使用料を支払っていないとして、米軍基地の封鎖を議会の賛成多数で決定。米軍は基地使用料など多額の資金援助をキルギスに行なっていたが、ロシアはそれを上回る支援を約束した。結局、どうしても手放せないアメリカは、使用料を増額して基地使用を取り付けた(それまでの3倍の額で年間6000万ドル)。結局バキエフが米露を手玉に取った形になった。
バキエフ大統領は国内でも、ますます独裁主義的になっていると批判されてきた。07年には憲法改正をして、反対勢力が政治舞台に上がることを禁止するなど、自らの権力を拡大。首都ビシュケクを皮切りに、国内で公共のデモを禁止し、反政府勢力の大物がトルコのビジネスマンを殺したとして不法逮捕されたり(陰謀だと指摘されている)、政府に批判的なジャーナリストへの暴行、政治活動からNGOを締め出す法案を審議したりと、バキエフはやりたい放題だった。
また弟を国内の公安機関の中心になるポスト、国家警護庁長官に任命し、バキエフ兄弟は国家の重要人物の行動などのすべてを掌握することになったと指摘された。弟は国家保安庁の諜報局員の第1次官だった06年、野党議員の鞄にヘロインを忍び込ませる工作を行い辞職した経験を持つ。
アスカル・アカエフ元大統領も強権支配が原因で大統領の座を追われた。だがアカエフ時代よりも、バキエフ政権の方が独裁的で、汚職も蔓延していると非難されてきた。
歴史は繰り返す、というところか。
――編集部・山田敏弘
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