コラム

GDP世界第4位転落を招いた一因としての格差構造──上位10%が全所得の44.24%を握る日本

2024年03月01日(金)20時40分
東京の街並み

1980年代までは30%台を保っていたが…(写真は東京の街並み) Leonardo da-Shutterstock

<日本の格差がここまで拡大した理由を、貯蓄率と金融資産の保有率から考察する>


・所得上位10%が全所得に占める割合でみて、日本はG7中アメリカに次ぐ高さで、格差大国とみられてきた中国と大差ないレベルにある。

・日本の場合、貿易依存率が低く、内需主導の経済構造であるため、格差による購買力低下は生産活動そのもののブレーキになりやすい。

・この格差を生んだ一因は、金融資産の形成を促すため日本政府が高額所得者への優遇税制を導入してきたことにある。

格差大国・日本

日本がGDPでドイツに抜かれて世界第4位になったことにはいくつもの要因があるが、そのうちの一つに格差の放置があげられる。

なぜそう言えるのかの前に、そもそも日本の格差の大きさを確認しておこう。

格差の計測にはいくつかの方法があるが、そのうちの一つが「所得上位10%の人口が全所得の何%を占めるか」だ。世界不平等研究室(World Inequality Lab)のデータベースによると、日本では2022年、上位10%の高額所得者が全所得の44.24%を占めた。

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これは国際的にみてどんな水準なのか。

日本の44.24%はG7でアメリカ(48.27%)に次ぐ高さで、その他のメンバーはなんとか30%台に収まっている。

これらと比べて日本の水準は、むしろ香港(48.18%)や台湾(48.12%)などに近い。

もちろん、「上」をみれば日本以上の国はいくらもある。最も格差の大きい国の一つ南アフリカでは65.41%だし、ロシア(50.77%)、インド(57.13%)、ブラジル(56.78%)などよりマシかもしれない。

それでも、これまで格差大国と認知されてきた中国(43.35%)とほぼ同じ水準にあることは、日本も立派な格差大国であることを示唆する。

大戦期に逆戻りした水準

もっとも、日本の格差は昔からこの程度だったわけではない。

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WILのデータでさかのぼれる最古のものは江戸時代末期の1850年の61.28%で、近代化の入り口に立っていた明治初期の1880年でも62.57%だったと推計される。

その後、大正時代の1920年には55%にまで下落した。都市を中心に中間層が生まれたことが大きな原因だったと考えられる。

そして日米開戦の前年1940年には現在の水準に近い48.32%を記録した。

戦後、農地改革や財閥解体といったGHQによる一連の改革と、その後の戦後復興・高度経済成長により、格差はさらに小さくなった。池田内閣のもとで所得倍増計画が打ち出された1960年には34.88%だった。

その後、「一億総中流」ともいわれた1980年代に至るまで、この水準は30%台を保った。それが初めて40%を突破したのは、バブル経済ただ中で東西冷戦が終結した1989年(40.69%)だった。

そして構造改革やグローバル化が進んだ2000年以降、この水準が40%を下回ることはなく、むしろ徐々に上昇してきた。その結果、日本の格差は、貴族や地主が君臨し、財閥が経済を握っていた約80年前の大戦期とあまり変わらない水準にまで大きくなったのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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