コラム

GDP世界第4位転落を招いた一因としての格差構造──上位10%が全所得の44.24%を握る日本

2024年03月01日(金)20時40分

成長のドライブvs.停滞のドライブ

ここで本題に戻ろう。日本で格差が大きいとしても、それがなぜ成長を妨げる一因になったといえるのか。

image-1708873708664_8bit.png

日本では2000年代以来、年功序列や定期昇給を前提とした日本型雇用慣行への反動から自由競争や成果主義が強調されるようになった。

それはある程度の格差を容認する論理を抱えていた。言い換えると、競争の結果である格差は成長のドライブと捉えられたのだ。

しかし、何事も程度もので、少なくとも他の国と比べて日本の場合、格差の拡大はむしろ停滞のドライブになりやすい。

日本はこの10数年、輸出や観光客の誘致に力を入れてきたが、それでもGDPに占める貿易の割合は30%台で、国際的にみて低い水準にあるからである。

image-1708875075483_8bit.png

つまり、日本経済は依然として内需主導なわけだが、この構造のもとでは格差拡大による国内の購買力の低下が生産活動のブレーキになりやすいのだ。

この構造的な要因に拍車をかけたのが、コロナ禍やウクライナ侵攻後をきっかけとする歴史的な円安やインフレだ。こうした生活コストの増加によって日本の可処分所得は急速に低下し、経済全体の萎縮が一気に表面化したといえるだろう。

貯蓄の少なさ、金融資産の多さ

それでは、なぜ日本の格差はこれほど拡大したのか。そこにはもちろんいくつもの原因があるが、ここでは貯蓄率と金融資産の保有率に注目したい。

1980年代の日本は「世界一貯金をする国」ともいわれたが、その貯蓄率は今や主要国で下から数えた方が早い。

image-1708874156448_8bit.png

経済協力開発機構(OECD)のデータベースによると、可処分所得に占める貯蓄の割合は2012年から2021年までの10年間の平均で2.97%だった。これは一位のスイスの1/6程度の水準だ。

超低金利時代が続き、さらに非正規雇用など不安定な就労形態が増えたことが、貯蓄率を低下させてきたとみてよい。

ところが、これと対照的に、家計に占める金融資産の平均的な割合で、日本は世界屈指の水準にある。

つまり、現在の日本では預貯金が少ない代わりに株式投資などによる金融資産形成が目立つのであり、これは政府が進めてきた方針にも合致する結果だ。政府を当てにできない将来への不安がこれを後押ししているともいえるだろう。

image-1708874765862_8bit.png

ただし、一律に金利がつく預貯金と違って投資の場合、幾何級的に資産を増やす人とそれ以外の差が大きくなることはいうまでもない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国、和平合意迫るためウクライナに圧力 情報・武器

ビジネス

米FRB、インフレリスクなく「短期的に」利下げ可能

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story