コラム

「ウクライナ追加支援6000億円」を擁護する論理(人道や国際正義をぬきに)

2023年12月27日(水)21時40分
国連安保理で岸田首相の隣席で発言するゼレンスキー大統領

国連安保理で岸田首相の隣席で発言するゼレンスキー大統領(2023年9月20日) Mike Segar-REUTERS

<「国民の生活が大変なときに」「自民党の裏金から出せ」と批判が噴出したが、追加支援は日本にとって単純なマイナスとはいえない>


・日本政府がウクライナに6000億円の追加支援を決定したことにSNSなどでは批判が噴出した。

・ただし、そのかなりの部分はローンで返済を前提にしている。

・さらに日本政府は、追加支援の活用による日本企業のビジネス機会拡大と、拠出額以上のリターンを見込んでいるとみられる。

日本政府がウクライナ向けに6000億円を提供すると決定したことには批判も多いが、この追加支援には日本自身の利益も視野に入っているとみてよいだろう。

「6000億円」への批判

鈴木俊一財務相は12月19日、G7財務相・中央銀行総裁会合でウクライナに45億ドル(約6000億円)を拠出する用意があると明らかにした。その内訳は人道支援に10億ドル、世界銀行を通じた復興ローンなどに35億ドルとなっている。

ウクライナ向け二国間援助

日本政府は今年10月末までにウクライナに約72億ドルを提供しており、これは先進国中5番目の規模だ。

そのうえさらに「6000億円の追加支援」が発表されるや、SNSなどでは「国民の生活が大変なときに海外に資金をバラまくな」「自民党の裏金から出せ」といった反発が広がった。

首相が「増税メガネ」と揶揄されるほど政府への信頼が低下し、自民党に不正資金疑惑が噴出していることから、こうした批判も理解できる。また、金額の根拠にも議論の余地はあるだろう。

その一方で、岸田政権や自民党を擁護しなければならない義理も意思もないが、ある程度の規模の追加支援は日本にとって単純なマイナスとはいえない。

人道や国際正義といった論点は、いったん置く。ここでのポイントはむしろ、追加支援をうまく活用すれば拠出額以上のリターンを日本にもたらせる、ということだ。

というのは、ウクライナ向け民間投資への関心が高まり、各国が進出機会をうかがっているからだ。

ウクライナ投資のリスクと期待

戦時下の国での投資、というと「戦争で儲けるのか」といった批判もあり得るだろう。

しかし、お金だけあっても意味はないかもしれないが、お金がなければ道が閉ざされやすいのも確かだ。特に国際関係ではそうだ。

ウクライナでは民間施設の破壊を含む大規模な戦闘が続いているが、経済は止まっていない。さらに、インフラ復旧をはじめとする復興の足がかりを作るうえでも資金は欠かせない。

世界銀行はウクライナ復興に必要な資金を約4110億ドルと見積もっているが、いわゆる支援だけでは到底足りない。だからこそ、ウクライナ政府やその最大の後援者アメリカ政府は民間投資の誘致に力を入れているのだ。

その結果、昨年のウクライナ向け海外直接投資(FDI)は約8億5000万ドルだった。

その前年2021年は73億ドルだったため、ロシアによる全面侵攻がウクライナ向けFDIに大きなブレーキになったことは間違いない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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