コラム

ウクライナのドローン戦争の「異常性」──中国製軍用ドローンが見られない理由

2022年10月25日(火)16時50分

その一方で、ウクライナには他の戦場にみられない特徴もある。なかでも、翼竜IIなど中国製軍用ドローンがほとんど確認されていないことだ。

これまで中国はリビアやエチオピアで、トルコと張り合うようにドローン輸出を進めてきた。いずれもアメリカ製など先進国のものより格段に安く、価格面での優位をテコに軍用ドローン市場を席巻してきた。

中国が軍用ドローンに力を入れるのは、有人航空機の開発で米ロに遅れをとるなか、比較的新しい分野である軍用ドローンなら競争できるという目算があるからだろう(第一次世界大戦の前に、それまで海軍力の柱だった巨大戦艦の建造レースでイギリスに及ばなかったドイツが、新兵器である潜水艦に力を入れたのと同じ)。

各国へのドローン輸出には、単なる市場シェア拡大だけでなく、実戦データを蓄積し、ドローンという発達途上にある分野での技術開発で優位を確立する目的があるとみられる。

中ロの隙間風

ところが、ウクライナに限っては、中国製ドローンがほとんど確認されていない。これは中国とロシアの微妙な関係を象徴する。

習近平国家主席はロシア軍がウクライナ侵攻を開始した直後、プーチン大統領との会談で「ロシアの安全保障上の懸念を理解する」と述べたものの、それを支持するとは決して言わず、3月の国連総会でのロシア非難決議も欠席した。

しばしばワンセットで語られる中ロだが、その利害が一致するとは限らず、これまでも中国はウクライナ侵攻と微妙に距離をおいてきた。

つまり、中国はロシアを非難しないものの、積極的に協力しているともいえない。ロシア産の原油や食糧を輸入することを「協力」というなら、西側以外の世界中のほとんどの国がロシアに協力していることになる。

また、ロシアにしても、中国から武器支援を受けるわけにはいかない。

冷戦時代のソ連の頃から、ロシアは反西側のリーダーの座を中国と争ってきた。そのロシアにとって、今や経済面で中国に水をあけられている以上、軍事は中国に対する優位を示せる数少ない領域だ。

ここで中国の軍用ドローンに頼れば、ウクライナ侵攻後の力関係において、ロシアはこれまで以上に中国の顔色をうかがわなければならなくなる。

あればあったで人目を引く中国製軍用ドローンは、逆にほとんど見受けられなくても、それなりの示唆を与えるほどの存在感を、現代の戦場においてもつといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送英アンドルー元王子を釈放、今後も捜査継続 公務

ワールド

米、インドネシアへの関税19%で維持 昨年合意通り

ビジネス

テスラ、米国でサイバートラック「サイバービースト」

ワールド

アングル:エプスタイン元被告、中東政財界に強いパイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 5
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 6
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 7
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    カンボジア詐欺工場に「人身売買」されたアフリカ人…
  • 10
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story