コラム

ウクライナのドローン戦争の「異常性」──中国製軍用ドローンが見られない理由

2022年10月25日(火)16時50分

しかし、ドローンによる攻撃は標的の確認が不正解になりやすく、民間人に対する「誤爆」も多い。そのため、そもそも軍用ドローンを用いること自体、戦時国際法を定めたジュネーブ条約に違反するという指摘もある。

それでも法的な議論はほとんど進まないまま実態だけが先行し、とりわけこの数年でドローン戦争が激しくなってきた。

コスパ重視の戦争へ

どの国も、自軍兵士の犠牲を減らしながら戦果をあげたい。ドローンの利用はいわば「コスパ重視の戦争」を目指す気運の象徴といえる。

さらに、技術の普及にともない、軍用ドローンを生産・輸出できる国が増えたことが、ドローン戦争に拍車をかけてきた。

その結果、例えばイエメンの反体制派フーシは2019年、イエメン政府を支援する隣国サウジアラビアの最大の石油企業サウジアラムコの施設をドローンの自爆攻撃で破壊し、これによってサウジアラビアの石油生産量は一時半減した。同様の攻撃は、今年3月にも発生している。

また、(日本でほとんど報じられない)エチオピア内戦では、政府軍がトルコ製バイラクタルTV2、中国製翼竜II、イラン製モジュール6などを用いているといわれる。

なかでも数多くのドローンが飛び交うのが、「ドローン戦争のグラウンド・ゼロ」とも呼ばれたリビアで、敵対する二つの勢力がそれぞれトルコ、中国からドローンを調達してきた。その結果、ニューアメリカ財団の調査によると、2018年6月からの20カ月だけで1863回の攻撃が確認され、333-467人の民間人が犠牲になった。

リビアでは人工知能(AI)を搭載した自律型殺傷兵器(LAWS)、いわゆるキラーロボットも登場した。

国連は2020年3月の戦闘で、リビア政府軍がトルコ製LAWSを用いたと報告している。リビアで使用されたのは、トルコの兵器メーカー、STM社が開発したLAWSとみられているが、トルコ軍は同年6月にKargu-2の導入を発表した。

つまり、トルコ軍の正式採用より先にKathy-2はリビアで使用されたのであり、だとするとリビアは最新式LAWSの実験場になったといえる。

ウクライナの特殊性

こうした世界の潮流をみれば、ウクライナの戦場でドローンが多用されること自体は不思議ではない。

このうち、ロシア軍はロシア製オルラン10の他、イラン製シャヘド136を投入しているといわれる(イラン政府はロシアへの武器輸出を否定している)。

これに対して、ウクライナ側はバイラクタルTV2などのトルコ製だけでなく、アメリカ製スウィッチブレードなどを用いている。

ただし、軍用ドローンは有人航空機に比べれば安価で、トルコ製など新興国製になればさらに先進国製より安いが、それでもバイラクタルTV2の場合1機200万ドルほどする。そのため、ウクライナ、ロシアの双方とも、軍用より安価な中国製Mavic-3(1機2000ドル程度)など民生ドローンを用いているといわれる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story