コラム

ウクライナのドローン戦争の「異常性」──中国製軍用ドローンが見られない理由

2022年10月25日(火)16時50分
翼竜II

第二次世界大戦戦勝70周年パレードに参加した翼竜II(2015年9月3日、北京) REUTERS/Andy Wong/Pool

<今日、戦場でドローンが多用されることは珍しくない。ただし、ウクライナには他の戦場にみられない特徴がある>


・ロシアとウクライナは双方ともドローンを有効な兵器として用いているが、これは世界の潮流からみて不思議でない。

・自軍兵士の犠牲を減らしながら攻撃するドローンは「コスパ重視の戦争」の象徴といえる。

・ただし、ウクライナの場合、中国製軍用ドローンがほとんど確認されていないことが、他の戦場とは大きく異なる。

ウクライナでは戦局のエスカレートとともに、双方がドローン(無人航空機)をこれまで以上に投入している。ドローン戦争そのものはもはや珍しくないが、ウクライナは他の多くの戦場と異なり、中国製軍用ドローンの使用がほとんど確認されていない点に一つの特徴がある。

カミカゼ・ドローンの急襲

ウクライナでは今月初旬以来、各地をロシアがミサイルで攻撃してきたが、ここにきてロシア軍はドローン多用にシフトしている。

17日早朝、首都キーウがロシア軍ドローン28機の編隊に急襲された。ドローンは電力関連施設などに突っ込み、8人が死亡した他、周辺地域の一部で電力を送れなくなった。

こうした自爆攻撃を行うドローンはカミカゼ・ドローンと呼ばれる。

キーウ市長は英BBCの取材に「標的に突っ込んだのは5機だけ」と述べ、むしろカミカゼ・ドローンの多くを撃墜した成果を強調した。

とはいえ、一部しか目的を達せなかったとするなら、それはかえってカミカゼ・ドローンのインパクトを示すともいえる。

一方で、ドローンによる自爆攻撃が増えたことは、ロシア軍が都市やインフラを、単価の高い巡航ミサイルより安いコストで攻撃したいからという観測も成り立つ。

ドローン戦争の系譜

もっとも、近年の戦場では軍用ドローンが珍しくない。

無人の航空機を軍事目的で飛ばす研究は、第一次世界大戦中に米英などで始まった。当初は既存の航空機にリモート操作の機器を取り付ける構想が主流だったが、第二次世界大戦後は小型の専用機の開発にシフトし、ベトナム戦争などでも実験的に使用された。

コンピューターが急速に発達した1990年代以降、その進化は加速したが、その本格的な運用は対テロ戦争で始まった。

2001年のアフガン侵攻でタリバン政権を打倒したアメリカ軍は、その後の駐留部隊に対する自爆攻撃に手を焼くなか、人的コストを減らす手段として、隠密性の高いドローンをアフガニスタンやパキスタンなどに投入したのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米大統領とイスラエル首相、ガザ計画の次の段階を協議

ワールド

中国軍、30日に台湾周辺で実弾射撃訓練 戦闘即応態

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、主力株の一角軟調

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story