コラム

マザー・テレサの救貧院に政治的圧力──インドで見られる「弱さの玉突き」

2022年01月06日(木)13時00分

その主な標的はこれまで、人口の約14%を占める最大のマイノリティー、ムスリムだった。2017年、動物虐待防止を名目に、ヒンドゥーで神の使いと扱われる牛の輸送を禁じる法律が成立したことは、輸送業者の多くを占めるムスリムを狙い撃ちにしたもので、この年だけで10人以上のムスリム輸送業者がBJP支持のヒンドウー教徒のリンチで殺害された。

さらに、2019年にインド議会が法律を改定し、2014年以前に流入したキリスト教徒やシーク教徒にはインド市民権が認められた一方、ムスリムはここから除外された。

これに抗議するムスリムの座り込みをBJP支持者が襲撃し、これをきっかけに2020年2月にはデリーで大規模な暴動が発生した。この際、ほとんどの警官はムスリムに暴行を加えるヒンドゥー教徒を制止しようともしなかったと、インドの裁判所は認定している。

インドではムスリムよりさらにマイノリティーであるキリスト教徒へのヘイトスピーチなども急増しており、「宣教者会」への締め付けはその延長線上にある。つまり、欧米という自分たちを虐げてきた強者を拒絶するインドの主流派は、自分たちのなかの弱者への敵意も明らかにしているのだ。

弱さの玉突き

なぜ「強者への拒絶」が「さらなる弱者への攻撃」につながるのか。

近年の世界ではヘイトが珍しくなくなっているが、その多くは「自分は政府や社会に虐げられている」という被害者意識に根ざしている。欧米の白人至上主義者の多くは、国策として移民が受け入れられた結果、自分たちの世界が侵食され、自分たちが不利益を被っていると考える。

こうした被害者意識は、自分の権利への意識が強まるにつれ、増幅しやすくなっている。

しかし、被害者意識による強者への拒絶が、そのより所として力への信仰を生んだ時、それは自分より力なき者に存在意義を見出さない思考に転換し、弱者へのマウンティングで自己肯定しやすくなる。

多くの差別主義者が反エリート的、反権威的である一方、少数派の民族や宗教だけでなく女性、LGBT、障害者などを蔑視し、時に攻撃の対象にすることは、その現れである。ヒトラーがユダヤ人迫害を主導した時、これに率先して呼応した多くは富裕層ではなく、むしろ1929年の世界恐慌で落ちぶれた中間層だった。

日本でも、特にイデオロギー的でもない普通の男性が、女性の権利を叫ぶフェミニストや生活保護受給者に尋常でないほどの敵意や軽蔑の念をみせることがあるが、これは「自分は常日頃から我慢を強いられている」という感覚があるからこそといえる。これはいわば「弱さの玉突き」と呼べるかもしれない。

だとすれば、ヒンドゥー・ナショナリズムの高まるインドで「宣教者会」が締め付けられる状況は、世界中で広がる弱さの玉突きの一例に過ぎないともいえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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