三井住友銀行ソースコード漏洩の警鐘──サイバーセキュリティ後進国の課題とは
当のSEの弁明によると、「意図的に公開したわけではない」。ただし、そうだったとしても、ソースコードを持ち出せていた時点で、本人だけでなく管理側の責任も問われることになる。
サイバーテロの脅威に対して日本はデジタル後進国ともいわれ、かねてから脆弱性が指摘されてきた。今回の一件は、日本を代表するメガバンクの一つや警視庁の情報(その重要度や悪意の有無にかかわらず)までがいかに簡単に漏れるかを図らずも示した。
サイバーセキュリティ先進国を目指すなら、高度なシステムを築くだけでなく、企業ガバナンスや労働環境といったいわばアナログな部分の改善も重要になるだろう。
現代版「ラッダイト」を防ぐために
さらにこの騒動の重大な点は、現代の産業社会に対するさらなる抵抗や破壊を誘発しかねないことだ。
善い行いでもそうでなくても、人目が集まった出来事はコピーされやすい。ソースコードを持ち出せる環境があちこちにあるなら、(たとえ今回のSEがそうでなかったとしても)雇用主や顧客への不満を募らせた者が、今回の一件に触発され、通り魔的な感覚で漏洩しようとした場合、防ぐことは難しいだろう。
産業社会の基盤を確信犯的に破壊しようとする行為は、18世紀から19世紀にかけての資本主義の初期から見受けられたものだ。18世紀末、産業革命が進んでいたイギリスでは、夜ごと工場の機械を破壊する打ち壊し運動が広がった。ラッダイト運動と呼ばれたこの動きは、機械化・産業化が進むなか低所得と困窮にあえぐ労働者を中心としていた。
ラッダイト運動はむき出しの資本主義経済のもとで搾取される人々の不満が爆発したもので、当初イギリス政府は死刑を含む厳しい対応をとった。しかし、厳罰で機械打ち壊しを取り締まる限界に直面したことで、イギリス政府はその後、労働者の処遇改善に向かうことになった。
つまり、ラッダイト運動は労働運動や社会保障が発達する一つのステップになったといえる。ただし、企業資産の破壊は少なくとも現代的な言い方でいえばテロリズムに他ならない。これに限らず、世界史にはテロで動いてきた側面が拭い難い。
現代の日本に目を向ければ、様々な業界で人件費などが抑制されていることは今更いうまでもなく、労働者に占める非正規雇用の割合が先進国中、上から数えた方が早いことは、これを象徴する。情報通信産業もまた例外ではない(筆者が片足を突っ込んでいる大学業界も大きなことはいえないが)。
今回の騒動がアクシデントであったとしても、雇用環境などに不満を抱く者のなかから触発された確信犯を生まないことは、ドメスティックなサイバーテロを防ぐためだけでなく、社会全体の安定にとって欠かせない。現代版ラッダイト運動の広がりを防げるかは、サイバーセキュリティと社会保障の両面にまたがる課題といえるだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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