なぜ右傾化する高齢者が目につくか──「特別扱いは悪」の思想
大学紛争は、当時の大学の機械的な運営や学費値上げなどへの反発に端を発したが、これがやがて官僚支配や大企業による経済支配といった社会の構造そのものへの批判に発展した。その延長線上に、アメリカ史上最もダーティーな戦争の一つベトナム戦争や、日米安保条約のもとでこれを暗に支える日本政府への批判も噴出し、大学だけでなく高校にも余波が広がったのである。
「虐げられた若者の反乱」が起こったのは日本だけではなかった。1968年から1969年にかけて、アメリカの公民権運動やベトナム反戦運動、パリ中心部を占拠した学生運動「5月革命」、そしてソ連の影響下に置かれていた当時のチェコスロバキアで発生した民主化運動「プラハの春」などが、世界各国で同時多発的に発生した。
これらはいずれも、今よりさらに年長男性優位(アメリカではここに白人キリスト教徒という条件がつく)が鮮明だった時代に、「自分たちの声を聞け」という欲求に駆られていた点でほぼ共通する。これは、その後の女性の社会進出や人種差別規制などに結びついた。
スローガンと常識の狭間
だとすれば、なぜ現在、歳を重ねたこの世代に右傾化する人が目立つのか。
少なくとも日本の場合、この世代に変わり身の早い人が目立ったことは、以前からその上下の世代から指摘されてきた。大学紛争で授業を妨害し、デモを行い、果ては警官隊と衝突した人々の多くは、卒業が近づくと見事に社会に順応し、就職活動を行って、その後は企業戦士としてバブル経済に突っ込む日本経済を支えた。
状況をみて自分の生活を優先させることは、常識的といえば常識的だ。しかし、それ以前「明日にも革命が起こる」と言わんばかりだった人々の豹変ぶりは、イデオロギーがある種のファッションに過ぎなかったことを示唆する。この観点からすれば、世の中のセンターラインがずいぶん右に寄った現代、右傾化することはファッションとして申し分ないかもしれない。
ただし、それではただの無節操に過ぎなくなる。(別に右傾化する高齢者を擁護しなければならない義理はないが)たとえ思想的に大きく転換したとしても、そこに何らか基軸はないのだろうか。
二つのヒント
このヒントが二つある。
第一に、マルクス主義歴史学者で労働運動家ダニエル・ゲランの、パリ5月革命に関する観察だ。
「それは直接行動を、決然たる違法行為を、職場の占拠を武器とみなした......それはすべてを、すべての既存の思想を、すべての既成の機構を告発した......あらゆる権威は辱められ、また、さらには嘲弄された」
出典:ダニエル・ゲラン『現代アナキズムの論理』、p8-9.
ゲランの『現代アナキズムの論理』はパリ5月革命の前後にフランスで広く読まれたが、彼の観察からは当時の若者が、大きな力で支配されることを拒絶した様子がうかがえる。ここに、権威や年長者に黙って従うのをよしとした戦前世代とは異なる革新性があった。
「核兵器を使えばガザ戦争はすぐ終わる」は正しいか? 大戦末期の日本とガザが違う4つの理由 2024.08.15
パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由 2024.07.30
フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン 2024.07.10