コラム

「対アフリカ援助で中国と協力する」日本提案の損得

2018年01月15日(月)18時30分

これに対して、日本は中国と同様、ローンを組んで大規模なインフラ整備を行うことを援助の柱にしており、経済成長に軸足を置いています。また、援助とビジネスを明確に区分けしようとする欧米諸国と異なり、日本政府は民間企業の投資も「国際協力」に含めています。さらに、相手国の内政に口を出すことは、ほとんどありません

つまり、その良し悪しは別として、日本は「西側先進国の一国であること」を外交上の大方針としていますが、その援助スタイルはむしろ中国のそれとよく似ているのです。その結果、日本と中国はインフラ整備を重視する援助において競合しやすいといえます。いわば「似た者同士」であることで、日本は中国との差別化の必要上、欧米諸国以上に中国を意識せざるをえないといえるのです。

中国の存在感の「恩恵」

ただし、外務省を中心とする日本の援助関係者にとって、中国がアフリカで存在感を高めてきたことは、むしろ幸運という一面もありました。

先述のように、日本の援助スタイルはむしろ中国のそれに近く、欧米諸国とは差異が目立ちます。1990年代半ば以降、西側先進国の集まりである開発援助委員会(DAC)では、援助の提供において貧困対策や社会サービスを重視することが申し合わされてきました。このガイドラインに法的拘束力はありませんが、日本もメンバー国です。

つまり、融資に基づくインフラ整備と経済成長を重視する日本の援助スタイルは、日本自身がメンバーであるDACのこの方針から外れたものです。これは単なる「違い」ではなく、欧米諸国からみて日本は「標準からの逸脱」でさえあります

その結果、1990年代から2000年代にかけて日本政府は、一度は欧米諸国のトレンドに合わせる形で、援助に占める融資やインフラ整備の割合を減らしました。しかし、それは日本にとって「苦手分野での勝負」を余儀なくされるものでもありました

その意味で、同様のスタイルの中国が2000年代にアフリカ進出を加速させ、欧米諸国がこれに警戒感を募らせたことは、むしろ日本にとって好都合ともいえます。欧米諸国からみて「逸脱」であっても、日本は「最終的に西側の一員」であり、その援助は中国とバランスをとるうえで「役に立つ」からです。つまり、中国の「お陰で」日本はDACの方針と異なる融資に基づくインフラ整備を、欧米諸国から文句も言われずに、加速させることができたといえます。

援助競争の弊害

ただし、日中の援助競争には大きく二つの問題があります。

第一に、日中が「アフリカの支持」を競う構図は、アプローチ対象であるアフリカの発言力を高めます。それは結果的に、アフリカ各国政府の援助要請に歯止めを効かせにくくしがちです。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 

ビジネス

日経平均は続伸、米相互関税の詳細公表を控え模様眺め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story