「子どもを誘拐して戦闘に参加させた賠償金」は1人90万円:「悪の陳腐さ」と「正義の空虚さ」
ところが、子ども兵の問題はしばしば国際的に取り上げられ、それに対する制裁などは関心を集めやすいものの、武器や資金の国際的な規制は、遅々として進んでいません。子ども兵を利用する個人・組織の活動そのものを封じ込められなければ、子ども兵の利用を実際に減らすことは困難といえるでしょう。
「陳腐な悪」と「空虚な正義」
1963年、ナチスによるホロコーストの現場責任者だったアドルフ・アイヒマンの裁判がイスラエルで行われました。この裁判を傍聴したユダヤ人哲学者ハンナ・アレントは、その記録を『エルサレムのアイヒマン:悪の陳腐さについての報告』と題して発表。この中でアレントは、稀代の極悪人のイメージで語られがちだったアイヒマンが、ただ上司の命令に忠実な小役人であったことを報告しています。
ルバンガの場合、その創設者としてコンゴ愛国者同盟の実権を握っていた以上、組織に従順な中間管理職であったアイヒマンよりは主体性があったかもしれません。しかし、賠償金を支払う必要を認めなかったことにあるように、自らの罪についての意識や第三者的観点からみた思考が乏しいまま、人道にもとる罪を犯した点で、ルバンガはアイヒマンと共通します。
ルバンガ裁判からは、アイヒマン裁判から半世紀以上を経てなお、いわばどこにでもいる普通の人間が、特殊な環境に置かれた途端、その普通の感覚のまま非人道的な行いを平気で行なってしまう「悪の陳腐さ」を見出せるといえるでしょう。程度に差はあれ、これは過労死に至るサービス残業や、納期や効率を安全や法律より優先させることが当たり前となっている会社や組織で、「外の当たり前」とかけ離れた行為が「当たり前」になりがちなことと、基本的には同じといえます。
その一方で、繰り返しになりますが、今回の判決は「子ども兵の利用は許されない」というメッセージを形にしたもので、国際的な規範を普及させるうえで大きな意味があります。ただし、この判決が世界中で用いられている子ども兵を減らす効果には、ほとんど期待できません。つまり、ルバンガ裁判で避けられなかった実効性の乏しいメッセージの発信は、「正義の空虚さ」につながりかねないのです。
その後に事態の改善が続かなければ、個人の責任追及は単なる「特別な極悪人の吊るし上げ」で終わりかねず、それは再び「陳腐な悪」を生む土壌にさえなります。その意味で、今回の判決が「空虚な正義」で終わるか否かは、グローバル市場を通じた武器やタックスヘイブンの取り締まりなど、実際に戦闘が頻発する環境の改善にかかっているといえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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