揺れる米独関係
NATOにおけるGDP比2%の防衛予算問題
NATOサミットでトランプ大統領はほとんどのヨーロッパ諸国がNATOにおいて支払うべき金を払っていないと批判した。この批判は、NATOが2014年のウェールズサミットで合意した予算指針と現実の防衛支出との乖離を問題にしている。2017年の時点で防衛予算がGDPの2%前後とほぼ目標を達成しているEU加盟国でNATOの加盟国でもある国(EUかつNATOの加盟国)はイギリス、ギリシャ、エストニア、ポーランドのみである。ドイツは約1.2%と目標にはとても及ばない。
しかし、ドイツは2015年度から防衛予算を増額しはじめており、2016年度には大幅な増額がおこなわれ、この趨勢は続くと見られている。問題は、この数値は対GDP比であるために、GDPが当初見積もりより大きくなれば、達成は容易ではないことである。
ドイツは冷戦の終結とドイツ統一によって、安全保障環境が大きく変わったことから、連邦軍を大幅に縮小し、かつ領域防衛の軍隊から危機管理対応の軍隊へ改編し、徴兵制も2011年に停止した。しかし今日では、ロシアのクリミア併合とハイブリッド戦争、さらにはテロの脅威など、再び安全保障環境が大きく変化し、NATO、とりわけバルト諸国などの防衛に貢献する必要性などから、ドイツでも防衛予算の増額に対して大きな反対はない。メルケル首相も連邦議会などでこの目標に向けて努力することを発言している。
しかし、ドイツのような経済大国が防衛予算を2024年までに1.2%から2%に引き上げることは、さまざまな問題を生じさせることとなろう。NATOの目標では、人件費などを除いた兵器・装備への支出に向けることも合意されているため、短期間のうちに強大な装備を揃えることになる。確かにこれは2014年のNATOサミットにおける合意であるが、ドイツ国内では、短期間でドイツが軍事大国化することで、いかにヨーロッパ統合による和解が進んだといっても、東側の隣接国にとっては脅威にすらなり得るという配慮の声も多い。シュルツSPD首相候補が言うように、地域の安定化や開発援助など、包括的な政策にも関連づけて安全保障を語るべきであるとの声もある。
メルケル首相は前哨戦で3連勝、政権のゆくえは?
ザールラント州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州、ノルトライン・ヴェストファーレン州の3つの州議会選挙で勝利したメルケル首相は、難民危機という首相の地位の危機を克服し、トランプ大統領という不安を抱かせる指導者に対するヨーロッパの安定の軸として盤石の体制で9月の選挙まで走り抜けそうである。対照的に、シュルツSPD首相候補は、候補となった当初のみはメルケル首相をしのぐ支持を世論調査で集めることができたものの、3つの前哨戦での敗北から、メディアからはすっかり可能性がなくなったと見られるようになってきた。
【参考記事】地方選挙から見るドイツ政治:ザールラント州議会選挙の結果
しかし、ドイツ政治は連立の政治である。連立政権のジュニアパートナーとなる可能性のある緑の党、左派党に加えて、連邦議会への初進出を目指すドイツの選択肢(AfD)も議席を確保するであろうし、かつては連立政権のジュニアパートナーとして長年政権の座にあった自由民主党(FDP)も議席回復を狙っている。結局左派党とAfDを排除しつつ安定した多数を形成出来るのはCDU/CSUとSPDの大連立政権ということになる可能性は相当高い。対米関係が不安定化し、ドイツの課題が大きければ大きいほどドイツ政治は安定を指向し、大連立以外の選択肢は小さくなるであろう。
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