遊郭でほぼ完結する『幕末太陽傳』は今も邦画のベスト10に入る
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<緻密なストーリーと軽快なタッチ──笑いの後にやってくるラストの疾走は、難病で他界した川島雄三監督にとって必然だったかもしれない>
『幕末太陽傳』の舞台は江戸時代末期の品川の遊郭。維新まであと6年。でもオープニングは、撮影時である1957年の品川の街の風景だ。いわゆる赤線エリア。焼け跡の気配はさすがにないが、闇市的な雰囲気は残っている。米兵にすり寄る小柄な日本人女性たちのカットが、遊郭の重ね合わせであることを暗示する。
日本が国連に加盟して「もはや戦後ではない」が流行語になった1956年の翌年に、この映画は公開された。そして映画の時代設定は江戸期の終わり。この2つに共通することは、一つの時代の終わりと、新しい時代の始まりだ。
品川の遊郭を代表する一軒である相模屋に友人たちを誘って豪遊する佐平次(フランキー堺)は、友人たちを帰してから店に一文なしだと打ち明けて、自らが借金の形となって居残ることになる。
古典落語の『居残り佐平次』をモチーフにしていることは明らかだが、『品川心中』『芝浜』『らくだ』など他の演目も取り入れて1つのストーリーにしているらしい。
らしい、と書いた理由は、僕は古典落語に素養をほとんど持たないから。ない袖は振れない。でも落語のうんちくは枝葉の要素だ。知らなくても十分に楽しめる。本作が邦画のベスト10に必ずのようにランクインする理由の1つは、フランキー堺の圧倒的な演技力と存在感だ。とにかくテンポとキレがすさまじい。ジャズドラマー出身ゆえか、そのグルーブ感は半端じゃない。
あえてこの映画の欠点を挙げれば、高杉晋作を演じる石原裕次郎があまりに凡庸であることだ。特にフランキー堺とのからみのシーンでは、それが(残酷なほど)如実に表れる。基本的には相模屋を舞台にした「グランドホテル方式」。キャストのほとんどは(ラストシーンなど一部の例外はあるが)ほぼ外には出ない。昼か夜かも判然としない遊郭の中だけで物語は進行する。
しかしその緻密なストーリーと軽快なタッチが、終盤で大きく変調する。佐平次を墓場にいざなう役回りの杢兵衛大尽との対話のシーンは、それまでの撮影や編集と全く違う。何かを宣言するかのような唐突なカットバック。佐平次がずっと咳をしていた伏線が不気味な影となって立ち現れる。そこに笑いはない。いや笑い過ぎた後だからこそ、佐平次の暗い表情がより強く印象付けられる。若い頃から難病を患い45歳で他界した川島雄三監督にとって、死に彩られたこのラストは、ある意味で必然であったのかもしれない。
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