コラム

技能実習制度「廃止」の言葉を疑う

2023年04月19日(水)17時45分
技能実習生

RSSFHS/ISTOCK

<多くの問題が指摘されてきた外国人技能実習制度の「廃止」にまで踏み込んだ報告書のたたき台が示された。私もまずは好意的に受け止めたのだが......>

外国人技能実習制度の見直しを目的とする政府の有識者会議で、4月10日に制度の「廃止」にまで踏み込んだ報告書のたたき台が示された。

技能実習については、1993年の創設以降、深刻な人権侵害を含むさまざまな問題が指摘されてきた。少なくない実習生が来日前に多額の借金を抱え、悪質な事業者に当たっても転職すら許されないという仕組みに苦しめられてきた。

国際貢献の建前と人手不足の穴埋めという実態の乖離も隠しようがなく、いよいよ政府として大きく動かざるを得ないところまで追い込まれたと言える。

このニュースに対しては歓迎の声が多く飛び交った。私自身、技能実習の問題についてたびたび発信してきた経緯もあり、「廃止」という言葉をまずは好意的に受け止めた。

だが、会議で政府の事務局側が示し、有識者らも概ね賛同したとされる文書を読んで、それが技能実習の「廃止」という一言で済ませてよいような、そんなすっきりした内容ではないことが残念ながらすぐに分かった。

文書はこれまで有識者たちから出た多様な意見をまとめつつ、それを踏まえて今後の「検討の方向性」を示す形になっている。曰く「技能実習制度を廃止し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべきである」。

これを読めば誰でも「廃止」に目が行くわけだが、注目したいのはむしろ「人材育成」という言葉だ。

ポスト技能実習の新制度の目的を人材「確保」だけにするか、それとも「育成」も残すのか。そうしたせめぎ合いの末に「育成」が残った。この点こそが重要だと私は考えている。

理由を説明しよう。

そもそも現在の見直し論議の出発点となった古川禎久法相(当時)の昨年7月の発言はどうだったか。「長年の課題を歴史的決着に導きたい」としつつ、「国際貢献という目的と人手不足を補う労働力としての実態が乖離しているとの指摘はもっともだ」と述べている。

つまり、日本が途上国に対して「人材育成」で貢献するという建前の崩壊への認識こそが最初にあったわけだ。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 6
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 7
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 8
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story