木村正人
欧州インサイドReport

善意にも限界? ウクライナ難民の受け入れ「終了」を求める英ホスト家庭が続出する訳

2022年08月12日(金)17時56分
ウクライナ難民とチャールズ皇太子

ウクライナ難民と会話するチャールズ皇太子(2022年7月) Arthur Edwards/Pool via REUTERS

<イギリスの難民受け入れを支える「宿泊施設の提供」制度だが、文化や言語の違いによる衝突や、事前の約束が守られないケースも多い>

[ロンドン発]ロシアのウクライナ侵攻を受け、英政府は3月、宿泊施設を提供するホスト役がいればウクライナ難民に最長3年、英国での居住を認めた。この制度で7万9000人が渡英したが、最低限の条件である半年の受け入れを予定するホストのうち4分の1近くが生活費の高騰や経済的に余裕がなくなったことを理由に打ち切りを望んでいることが分かった。

英国家統計局(ONS)は7月7~14日、制度利用者を対象に初の調査を実施した。それによると、調査時点で宿泊施設を提供していたのは74%、ゲストがすでに退去していたのは4%、まだ宿泊施設を提供していないものの入居予定者がいると答えたのは18%だった。現ホストの19%は最低限の6カ月、23%が12カ月以上の受け入れを予定していた。

この制度は「ホームズ・フォー・ウクライナ」と呼ばれ、間もなく最低限の6カ月の期間が終わる。そのあとウクライナ難民やその家族が自立できなければホームレスになる恐れがある。食事の仕方、就寝時間、お金の使い方など家庭ごとのルールや生活習慣、文化の違いからホストファミリーと衝突した難民が退去を求められ、ホームレスになる事例が増えている。

戒厳令下のウクライナでは18~60歳の男性は兵員・労働力不足を補うため原則、祖国に留まらなければならない。幼子を連れて祖国を離れ、異国で暮らすウクライナ女性が精神的なストレスから鬱(うつ)を患うケースも少なくない。言葉が通じず、ホストファミリーに感謝の気持ちを上手く伝えられない。そうした行き違いが誤解を生み、不和の原因になる。

英国では1040世帯がホームレス状態に

ロシア軍が侵攻した2月24日から7月1日の間に1040世帯が地方自治体のホームレス防止・救済措置を申請。うち4分の3が子供のいる世帯だった。「ホームズ・フォー・ウクライナ」制度を利用したのにホームレスになったのは645世帯。家族を巡ってホストファミリーとの取り決めが崩壊したり、実際には宿泊できなかったりしたことが理由だった。

また、310世帯がホームレスになる危機に直面していた。このうちホストファミリーとの取り決めの崩壊を理由に挙げたのは230世帯、宿泊施設が不適切か利用できずに実際に宿泊できる状態ではなかったと答えたのは75世帯。このほか、85世帯はゲストを支援しなければならない理由がよく分からなかったと回答した。

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プロフィール
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木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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