多額の借金を背負うイギリスの大卒者の負担はさらに重くなる ARSTY/ISTOCK
<平均約800万円もの借金を背負って社会人生活をスタートさせる現代のイギリスの大卒者。学資ローンの制度変更で、彼らの状況はさらに悪化したうえ、学費無料だった年配者世代との格差はますます顕著に>
新型コロナウイルスの混乱とウクライナ危機の陰でいつの間にか、イギリスではやや小粒でよりステルス的な惨事が起こっていた。もう何度目になるか分からない学資ローンの制度変更が行われ、またも大学教育に進む若者の状況を悪化させることになったのだ。
改正により、ローンの返済期間(期間終了後は負債は政府によって帳消しになる)は30年から40年に延長される。加えて、学資ローンの金利は今年、12%に達する見込みだ。個人差はあれど、単純に考えれば大多数の若年層がより多く、より長期にわたってローンを払うことになる。
それでも多くの人が、退職年齢ギリギリまで払い続けて完済するだろう。近年大学を卒業する人々は、返済の始まる前から既に、月々の返済額が500ポンド(約8万円)と危機的なほどに膨れ上がっていることを思い知ることになる。
不可解な制度だが、いくつかの点ははっきりしている。まず、近年の経済ショックに苦しむ家計を救済するため政府がどんなに寛大な補助金や減税策を講じようと、学生はその恩恵にあずかれないということ。2つ目に、世代間による富の著しい格差が拡大し続けることだ。僕の世代(ボリス・ジョンソン英首相もそうだ)は大学に1ペニーの学費も払わずに済んだ。僕は少額の生活費まで支給されていた。対する今の大学生は年間9000ポンド(約140万円)超の学費を払い、平均5万ポンド(約800万円)の借金を背負って卒業する。
3つ目に、同世代内の不公平も生じる。度重なる制度変更のせいで、きょうだい間でも返済条件が異なることがあり得る(年下が損をする)。4つ目に、この制度の何もかも受け入れ難くなるほどの「変化球」がいくつか存在する。例えばスコットランドの人がスコットランドの大学に通う場合は学費無料になるので、イングランドからスコットランドの大学に進学した人は、クラスメイトが無料で受けられている教育に大金を払うことになる(そしてスコットランドの人々は実質、オックスフォード大学やケンブリッジ大学といったイングランドのトップ大学を志願しづらくなる)。
かつては無料だったものがなぜここまで高額になったのかと、時に疑問の声も上がる。手短に答えれば、大学に行く若者がほんのわずかだった時代は政府が彼らを賄う余裕があった、ということ。だが1999年にブレア政権が大学進学率50%との目標を掲げて以来、大学進学者数は急速に増え続け、公金では賄い切れなくなった。