コラム

退職者が続出する企業には「セルフ・キャリアドック」が必要だ

2019年01月11日(金)15時25分

辞める本当の理由は、誰にも語らずに去っていく

どの会社でも、従業員が退職するときは退職の理由を確認するケースが多い。だが果たして、辞めていく人間はどこまで本音を語るだろうか。心の奥底にある本当の理由を、去り際に話す必然性はない。立つ鳥跡を濁さないように、多くの人が、本当の理由を心に秘めたまま去っていく。

そのため、辞める時ではなく、普段から従業員の意識や要望を知って、その満足度を高めようという動きも強まっている。

例えば、経営コンサルティング会社のリンクアンドモチベーションは、組織課題を可視化できる「モチベーションクラウド」というサービスに力を入れている。これは、調査項目ごとの期待度と現実のギャップを教えてくれる。取り組むべき課題の優先順位が立てやすく、便利なツールだ。

一方、米国本社の調査会社ギャラップは、「Q12(キュー・トゥエルブ)」という診断ツールを開発し、多くの国で提供している。「職場で、自分が何を期待されているかがわかっている」「職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている」などの基本的な12の項目で、従業員の状況を把握できる。たった12項目で把握できるため、とても実施しやすい。

これら以外にも、従業員満足度を測る調査はたくさんある。企業にとって、従業員の満足度を知るのは素晴らしいことだ。どの調査も組織の状態や従業員の想いを教えてくれる。

本当の理由は、「セルフ・キャリアドック」が教えてくれる

ただ少し口惜しいのは、多くの場合、企業はその従業員満足度調査の結果を活かしきれていないことだ。

「この項目が低いのは、何のことを言っているのだろう」「経営者への信頼が低いが、どんな場面で何を感じてこうなったのだろう」などと、本当の原因を推察しなければならないことが多いのだ。原因を推察しながら、解決策を考えていかなければならない。

これらの調査で全体の課題を俯瞰して把握するだけでなく、個別の従業員の気持ちや不満を知ることができれば、原因の特定はもっと的確になり、解決策も見つけやすい。

それを実現できる仕組みが、前述の「セルフ・キャリアドック」なのだ。

セルフ・キャリアドックとは、従業員のキャリア形成を支援するために、定期的にキャリアコンサルティングの面談やキャリア研修を受ける機会を、企業が提供する仕組みのこと。分かりやすく言うと、プロのキャリアコンサルタントに、従業員が悩みや将来のキャリアについて自由に相談することができる仕組みだ。

セルフ・キャリアドックの費用を負担するのは企業側だ。従業員側は、自由に相談できると言われても、情報が洩れるのではないかと心配になるかもしれない。

しかし、きちんとしたプロのキャリアコンサルタントなら、守秘義務があるため自傷他害の危険がない限り相談内容を本人の了解なしに他言することはない。それは、たとえ経営者や人事部に対しても同じだ。

この守秘義務があるからこそ、従業員は安心して相談することができる。他の社員や人事部には言いにくい本音を話せるのだ。

キャリアコンサルタントは、面談によって把握した組織の構造的な問題や解決すべき課題を、個人が特定できない形で経営者や人事部にフィードバックし、解決を促す。そのため企業にとっては、2つの大きなメリットがある。

1つは、組織の構造的な課題を発見できること。もう1つは、従業員との面談を、経営者視点と働く側の視点の差から生まれるギャップを埋める機会にできることだ。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、5対4の僅差 12月利下げの

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story