出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京
巨大な「ギャップ」を埋める住宅を供給できるか
重慶のように郊外の大規模な公営住宅を建てる道と、深圳のように市中心部の城中村を活用して住居条件を改善する道とがあるが、そのどちらかを選択するというよりも、条件の悪い住宅に住んでいる低所得階層に対し、公的補助によってより条件の良い住宅を安価に提供するさまざまな試みが並行して実践されるべきであろう。なぜなら、深圳や重慶のように産業が成長中の大都市にはこれからも人口の流入が続くだろうし、そうした新しい住民たちには安全で条件の良い住宅へ住みたいという願望があるだろうからである。
しかし、いま不動産バブルの崩壊で売れなくなっているマンションが、こうした階層にも手が届く水準まで値下がりする可能性はまずない。住宅を所有できる階層に見放されて値崩れしているマンションの値段と、新市民や低所得階層に手が届く住宅の価格との間には、依然として巨大なギャップがある。そのギャップを埋めるような価格帯の住宅を供給できれば、中国の不動産業はまだ成長する余地が大きいはずだ。
少し大風呂敷の話をすると、いま中国が直面している問題は、ヨーロッパ経済史でいわれている「勤勉革命(industrious revolution)」という概念を想起させる。近代のヨーロッパにお菓子やタバコといった嗜好品が出現したために、それを買うために人々はより勤勉に働くようになったという。このことを経済史家は勤勉革命と呼んだのだが、高度成長期の日本では住宅がサラリーマンたちの勤勉革命をもたらしたのかもしれない。サラリーマンたちはローンを背負って住宅を買ったので、会社に長く勤め、給料が増えるように奮闘せざるをえなくなった。
中国でも低所得の労働者たちが住宅を買うようになれば、会社で長く勤勉に働くようになる可能性がある。だが、どうあがいても住宅が買えそうにないということであれば、彼らはやがて労働に疲れてやる気を失い、スラムに沈殿するか、貧しい故郷に帰ってしまうかもしれない。住宅が手に届くかどうかは、農村から出てきた労働者たちが都市に定住し、長く勤勉に働くかどうかに影響すると思う。
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