コラム

肝心な時にアクセルを踏み込めない日本企業

2022年08月18日(木)10時07分

EVと車載電池に関しては、株式市場でのブームは今も続いている。そのことは各社の株式時価総額を見れば明らかである。例えば、テスラは2021年の自動車(EV)生産台数が93万台と、トヨタの10分の1にも満たなかったが、株式時価総額は9606億ドルで、トヨタ(2182億ドル)の4倍に近い。また、BYDの2021年の自動車販売台数は73万台で、日産(382万台)の5分の1以下だったが、時価総額は1254億ドルで、日産(154億ドル)の8倍以上である。

「これからEVの時代が来る」と予測した投資家は片手間でEVをやっている日産やEV化に取り組むのかどうかあやふやなトヨタの株よりも、EVと心中する覚悟を見せているテスラやBYDの株を買うということである。であるのならば、日産もEV事業を独立の子会社として切り分け、株の3割程度は保有し続けるとしても、残りの株を一般投資家に売って資金調達すれば、EV事業を大きく羽ばたかせることができるのではないだろうか。

車載電池トップから落ちたパナ

車載電池でも同様のことが起きている。2016年まで世界の車載電池産業のトップであったパナソニックは電池以外に家電、住宅設備、自転車、パソコン、電子部品、産業用機械など非常に多くの製品分野を手掛ける多角経営を行っている。そのため、車載電池に将来性があると感じた投資家といえども、パナソニックの株を買うのには二の足を踏むだろう。

一方、CATL(中国)は車載電池に特化している。CATLはパナソニックよりも後発のメーカーだが、積極的な増資による資金調達によって事業をどんどん拡大し、世界トップの車載電池メーカーとなった。その時価総額はいまや1883億ドルと、パナソニック(197億ドル)の10倍に近い。

韓国のLG化学も車載電池の有力メーカーだったが、CATLに対抗するために、車載電池部門をLGエナジーという子会社として切り分け、2022年1月に韓国の証券取引所に上場した。それによってLGエナジーは1兆2000億円を調達し、主に北米での工場増設に投資するという(日経XTech、2022年1月28日)。LGエナジーの時価総額は822億ドルで、パナソニックの3倍以上である。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英独仏首脳がトランプ氏と電話会談、ウクライナ和平案

ビジネス

豪11月就業者数は2.13万人減、予想外のマイナス

ワールド

米政府、ルクオイル外国資産の売却期限を来年1月17

ビジネス

米FRB、流動性管理へ短期債購入を12日開始 刺激
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story