コラム

肝心な時にアクセルを踏み込めない日本企業

2022年08月18日(木)10時07分

このように外国企業はみな当該分野と心中する覚悟で臨んでいる。それに対して、日本企業の場合は、総合電機メーカーのシャープやパナソニック、ガソリン自動車をメインとする日産や三菱自動車など多角的な経営を営む大企業がいわば片手間に新事業に取り組んでいるのである。

専門メーカーの場合、当該産業が投資家たちの注目を集めることに成功すれば、株の新規上場(IPO)や増資によって投資資金を調達することが可能になる。実際、中国の太陽電池メーカー、サンテックは2005年12月にニューヨーク証券取引所に株を上場し、一気に4億ドルの資金を獲得した。これに刺激されて2006年から2007年にかけて中国の多数の太陽電池メーカーがニューヨーク証取やナスダックに株を上場して資金を調達した。

太陽電池より液晶パネルに注力

一方、総合電機メーカーの一事業部として太陽電池を作っていたシャープなど日本メーカーは株式市場での太陽電池ブームに乗ることができなかった。投資家の側から見れば、シャープが太陽電池のトップメーカーだと分かっていても、多数の事業部を抱えるシャープに投資した場合に果たしてその資金がどの事業に回るのかわからない。実際、当時シャープが力を入れていたのは液晶テレビや液晶パネルであり、太陽電池は二の次、三の次であった。そのような事情のため、太陽電池に将来性を感じる投資家の投資対象として日本メーカーは選ばれないのである。

ただ、2009年からヨーロッパでの太陽光発電に対する買い取り優遇政策の取り消しなどにより太陽電池産業の雲行きが怪しくなり、太陽電池専門メーカーの株価は低迷した。中国の太陽電池メーカーは2010年から国家開発銀行などの融資を得るようになったが、各国の政策の変化に翻弄され、有力メーカーだったサンテックや江西賽維LDKが破産した(李、2018)。太陽光発電は各国での買い取り優遇政策のさじ加減によって需要が大きく変化するため、トップメーカーとして需要拡大の波に乗った企業ほど激しい落ち込みによって打撃を受けてしまった。ブームに乗って事業を拡大することは、ブームが去ったときに破産するリスクも背負い込むことになる。

もっとも、20年間の急速な発展を経て、今では太陽光発電のコストは火力発電にも対抗できる水準にまで下がっている。太陽光発電が買い取り優遇政策に頼らなくても事業が成り立つ時代が到来したため、今後政策のさじ加減によって需要が激しく変動するようなことはなくなるであろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story