コラム

肝心な時にアクセルを踏み込めない日本企業

2022年08月18日(木)10時07分

優れた研究開発能力を持ちながらも長年低迷してきたパナソニックは、ようやく旧来の企業体制では新事業の足を引っ張るばかりだということに気づいた。パナソニックは、2022年に持ち株会社のパナソニックホールディングス株式会社と、8つの事業会社に会社を再編した。事業会社の一つは電池を専門とするパナソニックエナジー株式会社である。今後、パナソニックエナジーを株式市場に上場すれば、パナソニックの一事業部にとどまるよりも多くの資金を調達して積極的な投資を展開できるようになる可能性がある。ようやくパナソニックの電池部門もCATLやLGエナジーなどのライバルに対抗するためのスタートラインに立ったといえよう。

──最後に、本稿の議論をまとめる。

1. 日本企業は将来性のある事業分野を見つけ出すという意味での戦略を誤ったわけではない。むしろ、その研究開発能力を生かして将来性のある分野を的確に見出し、それを事業として成り立たせるまで育てるうえで日本企業は世界的に見ても大きな貢献をした。

2. しかし、新分野が事業として採算がとれる見込みが立ち、外国のライバル企業が一斉に投資拡大のアクセルを踏み込んでいる時に、日本企業は投資に消極的である。

3. それは市場が量的拡大を求めている時に差別化を目指してしまうといった戦術的な判断の誤りに起因する部分もあるが、日本企業には量的拡大を目指そうにもその資金が足りないという事情があった。

4. 外国のライバルが株式市場でのブームを追い風に新規上場や増資によって資金を調達しているのに対して、日本企業の場合は、多角経営を営む大企業の一事業部として新事業が取り組まれていることが資金不足の原因である。

5.新しい事業分野が投資家の期待を集めているのに、社内の資金が足りなくて投資拡大のアクセルを踏み込めないのであれば、新事業を子会社として切り分け、株式市場に上場するべきである。

参考文献
丸川知雄『チャイニーズ・ドリーム――大衆資本主義が世界を変える』ちくま新書、2013年。
三品和広『戦略不全の論理――慢性的な低収益の病からどう抜け出すか』東洋経済新報社、2004年。
李春霞『中国の産業発展とイノベーション政策』専修大学出版局、2018年。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:インド進出を加速する英大学、移民抑制受け

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 7
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 8
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 9
    機内の通路を這い回る男性客...閉ざされた空間での「…
  • 10
    中国の砂漠で発見された謎の物体、その正体は「ミサ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story