半導体への巨額支援は失敗する
紫光集団は2013年に携帯電話用ICのファブレス・メーカー、展訊(Spreadtrum)と鋭迪科(RDA)の2社を買収し、この2社を統合してユニソック(紫光展鋭)とすることで、半導体産業への参入を果たした。
その後、NANDフラッシュメモリを作る長江メモリ、同じくメモリを作る武漢新芯、成都紫光、南京紫光といった大型の工場を次々と立ち上げた。これらの事業の資金は銀行からの借り入れや社債の発行で調達したほか、国家IC投資ファンドからも総額286億元(約4900億円)の出資を引き出している。
しかし、紫光集団の半導体事業は、最初に買収したユニソックだけはスマホ用ICの世界でそこそこの業績を上げているものの、大金を投じたメモリはあまり売れていないようである。紫光集団は投資した資金を売り上げによって回収できず、資金繰りが行き詰った。同社は日本でいえば会社更生の途上にあるため、国家IC投資ファンドが投じた資金が完全に無駄になると確定したわけではないものの、現状では大きな損失を被っている状況にある。
紫光集団が失敗したのは、端的に言って、半導体産業に「国産化」という発想が馴染まないためである。半導体は、研究開発や設備投資に膨大なコストがかかる一方、生産量を拡大するコストは小さいため、規模の経済性が顕著である。半導体の輸送コストも小さいため、販売先に近接した場所で生産するより、特定の場所に生産拠点を集中し、そこから世界へ運んだ方が経済的である。つまり、この産業は少数の企業が少数の生産拠点で集中的に生産する傾向があり、各国で国内需要のために生産するのは割に合わないのである。
国産化の動機はアメリカの圧力
ただ、もし海外の生産拠点からの半導体供給が阻害される事態が生じるとすれば、それは半導体の国産化を進める理由にもなるし、またその機会が生まれることになる。実際、アメリカ政府が自国産の半導体ばかりか、他国産の半導体を中国へ輸出することにさえ制限を加えはじめたことは、中国にとっては半導体の国産化を進める重要な動機となった。
ところが、フタを開けてみたら、アメリカの半導体輸出制限は実は大したことがなかった。トランプ政権のもとでアメリカから中国への半導体輸出は減少するどころか、むしろ2017年の53億ドルから2020年の102億ドルへ急増しているのである。バイデン大統領が就任した2021年はさらに前年を上回る勢いで、1~10月の輸出額は104億ドルと、年末まで2か月を残してすでに前年の実績を上回っている。
たしかにアメリカ政府の制限によってファーウェイは5Gスマホ用のICを入手できなくなったが、ファーウェイのそれ以外の製品に必要なICは輸入できている。まして、シャオミやオッポなど他のスマホメーカーの場合は、最先端の5Gスマホ用のICも問題なく輸入しているのである。
EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか? 2024.05.29
情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済 2024.02.13
スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦 2024.01.30
出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京 2023.12.07
新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム 2023.11.06
不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか 2023.10.26
「レアメタル」は希少という誤解 2023.07.25