半導体への巨額支援は失敗する
台湾新竹市のTSMC本社 Ann Wang-REUTERS
<台湾のTSMCとソニーが熊本に作る半導体工場に日本政府は日の丸半導体復活の夢を懸けるが、4000億円の補助金は無駄になる可能性が高い。世界の半導体産業を見渡すと、補助金は輸出の際に相殺関税を課されかねず、国内供給に限れば成功は見込めないからだ>
2021年12月に日本の国会で、日本国内での半導体工場の建設に対して政府から設備投資の半分までを補助する法案が可決された。これに先立ち、台湾積体電路製造(TSMC)がソニーと共同で熊本県に大型の半導体工場を建設する計画を発表しており、この法律が成立したことで、日本政府はこの新工場に4000億円程度を補助するとみられている。
この補助計画に対しては、半導体産業の専門家から「TSMCの熊本工場で作られるのは、デザインルール(回路線幅)が28ナノメートルという10年前の技術のものにすぎない。5ナノメートルの半導体の量産が始まっている現状では、これで日本の半導体産業が復活するはずもない」との批判の声が上がっていた。
私もその通りだと思う。この補助金によって、韓国、台湾、アメリカに大きく差をつけられた日本の半導体産業の局面を打開できるはずもなく、せいぜい現状維持できる程度であろうし、これが日本の経済安全保障に資するかというと、そもそもそのロジックが不明なのである。
経済安全保障と競争力回復は両立しない
この補助金をめぐる議論が混乱しているのは、「経済安全保障」と「半導体産業の競争力回復」という二つの異なる目標がごっちゃになって論じられているからだ。二つの目標のどちらを目指すかによってとるべき戦略は全く異なる。日本の半導体産業の現状を考えると両方を同時に追求できる手立てはない。
中国政府も半導体産業に対する巨額支援を行っているが、はかばかしい成果は得られておらず、すでにかなりの金を無駄にしている。
中国が半導体を国産化する決意を固めたのは1990年の湾岸戦争がきっかけだった。アメリカのハイテク兵器の威力を目にして、電子技術を強化する必要性を痛感したのだ。国家プロジェクトとして進められた半導体産業の育成には日本のNECが技術供与や出資の面でかなり協力した。しかし、NECも出資した上海の工場でDRAMを量産し始めたものの、2001年のドットコム・バブル崩壊のあおりを受けて事業は失敗した。
その後の10数年間、中国の半導体産業は主に民間主導で発展した。例えば、国内の携帯電話やスマホのメーカーが成長すると、それらに対する販売を見込んで、携帯電話・スマホ用ICの設計を専門とするファブレス(=工場を持たない)・メーカーが成長した。なかでも通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の子会社のハイシリコン(海思)や、ユニソック(紫光展鋭)は2020年第2四半期の時点では世界シェアがそれぞれ3位(シェア16%)、6位(シェア4%)と、そこそこの位置につけていた。
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