コラム

半導体への巨額支援は失敗する

2022年01月11日(火)06時19分

中国のファブレス・メーカーの成長を裏方として支えていたのは、台湾のTSMCや中国の中芯国際(SMIC)といった半導体受託メーカー(ファウンドリー)であった。ファブレスとファウンドリーを各々独立した企業が担って分業する台湾型の半導体産業が中国でも盛んになっている。

しかし、中国政府はこうした民間主導の半導体産業の発展には飽き足らず、2014年から再び介入を強めた。同年「国家IC産業発展促進政策」を制定し、それに基づいて国家IC投資ファンドを立ち上げた。政府や中国煙草などの国有企業からの出資金を総額1387億元(約2兆4000億円)集めて、これまでに85社の半導体関連企業に出資した。

その投資先を見ると、SMICなどのファウンドリーに全体の65%の資金を投じているが、半導体の製造装置、半導体材料、半導体のパッケージングとテスト、そしてファブレス・メーカー、さらには他のIC産業投資ファンドにも出資している。半導体産業の上流から下流までをカバーしており、その狙いは中国の弱点を克服し、半導体産業全体の国産化を進めていくことにあるとみられる。

目標は2030年の国産化率75%

この政策は、翌年にはハイテク産業全般にわたる国産化政策である「中国製造2025」にもつながっていく。その具体的な目標を産業ごとに示した「技術ロードマップ」のなかでは、ICの国産化率を2020年には49%、2030年には75%とするという目標が提示された。

なお、『日本経済新聞』など日本のマスコミでは、中国は「中国製造2025」で半導体の「自給率を2020年に40%、25年に70%まで高める目標を打ち出した」(『日本経済新聞』2021年10月13日)との誤報を繰り返している。これは「中国製造2025」のなかで「重要部品と重要材料」全般に関して掲げられた目標を半導体に関する目標だと誤解したものであろう。

皮肉なことに、こうした中国の野心的な政策がアメリカの警戒心を呼び起こすことになった。それまで中国のスーパーコンピュータはインテルなどアメリカ企業のICを使って、計算速度でアメリカや日本とトップ争いを繰り広げてきたが、2015年からアメリカ政府は中国のスーパーコンピュータ向けにアメリカ企業がICを輸出することを禁じた。そこで中国はスーパーコンピュータ用のCPU「申威(Sunway)」を開発した。

軍事への応用も想定されるスーパーコンピュータへのIC供給を制限するのは理解できるが、トランプ政権になると、民生品を作る企業であっても中国のハイテク企業の力を削ごうとする政策が乱発されるようになった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story