コラム

資本主義によって貧困を克服する

2018年10月30日(火)14時30分

また、合作社とは、本来は多数の農民が出資して特定の作物の生産に関する共同事業をするために作るもの、という意味で、日本の農協のような協同組織を指す。実際、農協のような共同事業を活発にやっている合作社もあれば、農業の経営主体はあくまで自営農民で、合作社は政府からの補助金をもらうための名ばかりのもの、というケースもあるようである。

だが、合作社のなかには特定の農民が経営する大規模農場となっているものもある。私が今夏訪問したある「合作社」は、村の書記(村の共産党組織の責任者。つまり村の最高実力者)が1人で33ヘクタールの大農場を経営していた。土地を割り当てられていた農民たちは、この村書記に土地を又貸しし、1アールあたり年60元(1000円)の地代をもらうほか、大農場で働けば男性は1日100元(1600円)、女性は1日70元(1100円)の賃金がもらえる。

経営者がいて、その指揮のもとに広い土地を使い、おおぜいの労働者を雇って行う農業は、「資本主義的農業」と呼ぶのがもっともふさわしいように思えるが、「資本主義」という言葉は中国ではタブーなので、「家庭農場」や「合作社」といった通りのいい名前をかぶせているのである。

このように、資本主義的な組織に社会主義的な名前をかぶせるということは中国では珍しいことではない。共産党が支配する社会主義国家で、資本主義的な企業が公然と活動しようとすると目くじらを立てる人がいる。だが、資本主義的企業が中国の経済成長の原動力であることは否定しようのない事実である。目くじらを立てたがる人たちに攻撃の材料を与えないようにしながら、資本主義的企業を発展させるために、社会主義的な名前をかぶせるのである。

工業やサービス業については1997年を境に、もう資本主義的な実態を社会主義的な名前で隠す必要はなくなった。今日中国経済をリードするアリババ、テンセント、ファーウェイなどはみな押しも押されもせぬ民営企業である。

自営をやめて貧困を脱する

だが農業は中国革命の原点であるだけに、今日でも「資本主義」、「地主」、「農地の私有」といった言葉を使ってその実態を表現することはタブーである。タブーが多いため農村で何が起きているのか実態がつかみにくい。今回報告したのは私の限られた見聞の範囲のことにすぎず、こうした状況がどれぐらい広がっているのかを文字の資料で把握することは困難である。

農民たちが農業を自営するのをやめて、大規模農場の労働者(兼零細地主)になることで貧困から脱却している、という中国での出来事は日本にとっても参考になるのではないかと思う。

あえて反発を覚悟で言えば、いまの日本にはやる気のない自営業者がとても多い。街を歩けば、1年間の売り上げが100万円に届かないような個人商店が駅前にずらっと並んでいる。個人商店が長年の低収益経営の果てに店をたたみ、駅前がシャッター商店街と化しているところも多い。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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