コラム

ショッピングモールのデザインが「かつての監獄」と同じ理由

2023年12月10日(日)09時30分
ショッピングモール

(写真はイメージです) Pandora Pictures-Shutterstock

<「安全な場所」には、トラブルを起こしにくくしている仕掛けがある>

年末が近づくと、クリスマス商戦、年末セール、正月飾りの準備など、多くの人が購買意欲をかき立てられる。そのため、吹き抜けの大型ショッピングモールも、にぎわいが最高潮に達する。

このショッピングモールのデザインは監獄と同じと言われたら、誰もが驚くのではないだろうか。ショッピングを楽しむ空間が、ショッピングを禁止された空間に似ているというのは不思議である。

 

監獄、つまり刑務所のデザインは「犯罪機会論」に基づいている。正確に言えば、基づいていた。というのは、最近の刑務所は、犯罪機会論から離れた設計をすることも多くなったからだ。しかし、監獄が誕生した当時は、そのデザインにしっかり犯罪機会論が反映されていた。

人的要因を把握するのは至難の業だが

そもそも、犯罪学には、人に注目する「犯罪原因論」と、場所に注目する「犯罪機会論」がある。トラブルが起きたとき、人のせいにするのが犯罪原因論で、場所のせいにするのが犯罪機会論だ。「人は間違える」ということ前提に、間違える条件を取り除こうというのが犯罪機会論である。

監獄の安全に関しても、犯罪原因論は無力に近い。なぜなら、受刑者の性格、つまりトラブルを起こす人的要因を把握することは至難の業だからだ。しかし、犯罪機会論は有効である。というのは、物理的デザインによって、トラブルを起こすコストを高くしたり、不利益を受けるリスクを高くしたりすれば、トラブルを起こしたくはなくなるからだ。

防犯を追求する物理的デザインは、「防犯環境設計」と呼ばれている。その研究によって、犯罪が起きやすい場所は、「入りやすい場所」と「見えにくい場所」であることが分かった。したがって、場所を安全にするには、「入りにくくすること」と「見えやすくすること」が必要になる。

この原理は、監獄にも当てはまる。もっとも、「入りにくくする」のは、鍵やフェンスなどを用いて、比較的容易に実現できるが、「見えやすくする」のは簡単ではない。単純に「見えやすい場所」にすると、同時に「入りやすい場所」になってしまうからだ。

そこで、考え出された建築様式が「パノプティコン」である。イギリスの哲学者ジェレミー・ベンサムが考案した。パノプティコンとは、古代ギリシャ語の「パン(すべて)」と「オプティコン(観察)」の合成語。円形の外周部に受刑者の部屋が並び、吹き抜けの中心に監視塔が立っているデザインだ。受刑者は実際には見られていなくても、看守の視線を気にせざるを得ないので、「一望監視施設」と呼ばれている。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

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