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性犯罪から子どもを守る新制度「日本版DBS」の致命的な盲点
このうち、日本では、前述したように、「①犯罪者」に関心が集中している。もっとも最近は、「②被害者」にも関心が寄せられるようになったが、未だその程度は微弱だ。さらに「③場所」に至っては、まったくと言っていいほど、関心が払われていない。
事件が発生すると、犯罪者だけを責めて終わり、という風潮がずっと続いている。もちろん、犯罪者に責任があるのは当然だ。しかし、犯罪者を責めるだけでは、被害者は救済されない。「③場所」の責任を認めて、初めて被害者が金銭的補償を得る可能性が高まる。
「③場所」の責任とは、場所の所有者や管理者が、犯行の機会を可能な限り減らす義務のことだ。海外では、この義務を軽視して、犯罪の機会を放置している間に犯罪が発生した場合、被害者が損害賠償を求めるのが普通に行われている。
イギリスでは、こうした犯罪機会論の法制化さえ実現させた。1998年の「犯罪および秩序違反法」がそれだ。その17条は、地方自治体に対し、犯罪防止の必要性に配慮して施策を実施する義務を課している。自治体がこの義務に違反した場合には被害者から訴えられる、と内務省が警告している。そのため、建物・公園の設計からトイレ・道路の設計まで、犯罪機会論が幅広く実践されている。
日本では、犯罪機会論を知る人は少なく、その法律もない。そのため、子どもの防犯といえば、防犯ブザーや「大声で助けを呼べ」「走って逃げろ」といった護身術など、個人で防ぐ「マンツーマン・ディフェンス」だけだと思われている。しかしこれは、襲われたらどうするかという「クライシス・マネジメント」だ。
対照的に、犯罪機会論は、場所で守る「ゾーン・ディフェンス」なので、襲われないためにどうするかという「リスク・マネジメント」になる。
犯罪機会論では、犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」であることが、すでに分かっている。したがって、ゾーン・ディフェンスは、場所を「入りにくい場所」と「見えやすい場所」にすることだ。前述した、場所の所有者・管理者が犯行機会を減らす義務とは、具体的には、場所を「入りにくくすること」と「見えやすくすること」なのである。
DBSは犯罪機会論の実効性を高めるシステム
さて、話をDBSに戻そう。
性犯罪から子どもを守る対策は、学校や保育所などを「入りにくく見えやすい場所」にすることに尽きる。その手法は、ハード面とソフト面に分けることが可能だ。このうち、ハード面の対策は防犯環境設計と呼ばれ、オランダには専門のコンサルティング会社もある。
一方、ソフト面の対策がDBSである。Disclosure(開示)は、学校や保育所などを「見えやすい場所」にすることで、Barring(禁止)は、学校や保育所などを「入りにくい場所」にすることだ。
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